第3話 八面六臂の活躍!

如月鈴音が早苗実業学校高等部に来てから、またたく間に5年が過ぎた。

彼女が来た当時は教師が不足していた事もあり、彼女はそれこそ

八面六臂の活躍…をせざるを得なかった。

専門の歴史以外にその他の社会科全般、国語、数学、英語等々。

クラブ活動では剣道部と音楽部の顧問も兼ねた。

そうして、その成果は校長たる大熊田宗茂も瞠目するものだった。


まず、その授業の分かり易さが群を抜いている事。

彼女の知識はにわかな物ではなく、深い理解と洞察に基づいており、

あの優しい口調で、それを基礎からゆっくり分かり易く教えてくれるのだ。

眼から鱗という言葉があるが、まさにそれであろう。

特に専門の歴史分野における彼女の語り口は真に入っており、

まるでその場に居合わせたかの如くの迫真の語り口は、聴く者を感動させた。

彼女の授業で居眠りをする様な不埒者は、ひとりも居なかったと言っても

過言ではない。理解出来ない者には、より理解しやすい様、彼女お手製の

解説プリントなどを渡し、さらに懇切丁寧に教えてくれた。

彼女が担当するクラスの成績は、常に学年の上位を占めた。


クラブ活動においてもそれは変わらない。

初心者にも丁重な手ほどきをする一方、実力のある者には、

その実力よりワンランク上の奥義を、伝授出来るだけの実力を持っていた。

ピアノやバイオリンの腕前はプロも瞠目する程であり、

眼にもとまらぬ薩摩示現流…剣術におけるその振りの速さは周囲を唖然とさせた。


それでいて、常に優しく、気さくに生徒の相談事に応じた。

優しく優美で可愛らしく、清楚。尊大な所は微塵もなく常に謙虚。

その上芸事においては全てが達人級。

そんな彼女に人気が出ないはずがなく、他の教師の妬みを買う程であった。


求婚の依頼も殺到した。しかし、彼女には一向にその気がないらしかった。

独身だった大熊田宗茂もそのひとりである。考えてみれば彼女が学校に

初めて来た時、26歳だったはずだ。それから5年、もう31歳である。

当時の世間的に見れば、行き遅れと言って良い年齢であろう。

宗茂はそれをチャンスと考え、鈴音に何度もアタックした。

しかし、彼女の答えはいつも連れないものであった。

彼女程の才媛であれば、全てにおいて申し分なく、選り取り見取りであろうに…。

それともうひとつ不思議な事があった。

彼女の容姿である。元々童顔で幼い容姿と言えばそれまでだが、

31歳になっても、まったく歳を重ねた様に見えないのだ。

この学校に初めて来た時と同じ、どうみても10代後半、

高校生と言っても誰も疑わない様な…容姿だったのである。

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