第60話 初めて


 貴族息子達のアジトから出てとっとと帰ろとしたが、子供達が離してくれなかった。


「魔王様いっちゃやだ」


「お父様とお母様に紹介しますから、一緒に来てください」


「だめよ、魔王様は私の家に招待するんだから」


「いいえ、私の家よ」


 何か言い争っているが、俺は誰の家も行く気はない。

 それにいったいなんて紹介する気だよ。

 面倒だからもう置いて帰れろう。


 俺はドライとフィーアを抱えると光魔法で飛んだ。


「あぁ、魔王さまー」


「また来てくださいねー」


「ありがとうございましたー」


 子供達が手を振りながら大声を出している。

 あんだけ騒いでれば衛兵がやって来て保護してくれるだろ。

 後はもう知らん。


 数分飛んで宿屋の厩舎に降りた。


「アウディとポルシェに乗ってアインス達と合流するぞ、準備しろ」


 アイテムボックスから鞍や手綱を取り出して、フィーアに渡した。

 念のために用意しておいて良かった。


 俺は馬車に移動して、馬車ごとアイテムボックスに収納した。

 荷物を乗せていても出来ることは確認済みだ。

 ここに来るまでに試しといてよかった。


 本当に無能は便利だ。


 フィーアの所に戻ったが、馬達の準備はまだ終わって無かった。


「すみませんゼント様、もう少々お待ちください」


「急げよ。騒ぎになる前に出発したい」


 貴族の死体が見つかったら、騎士団連中が動いてくるはずだ。

 俺一人で相手するのは問題ないが、フィーアとドライはまた捕まってしまう可能性がある。

 今度からもっと気を付けておこう。


 馬の準備ができると、俺はポルシェに、フィーアとドライはアウディに乗って門のところまで走った。


 飛んで逃げることはしなかった。

 門というよりは、この都市の上には四角い結界が張られていて、外からと内からの侵入を拒む能力がある。

 俺なら壊せるだろうが、どんな被害が出るかも分からないからやめておこうと思った。


「こんな夜中に何のようだ?」


 門の近くに到着すると、門番の男に止めらた。


「門を開けてくれ」


「何だ知らないのか、夜が明けるまで門を開けることは出来ない。引き返せ」


「どうしてもか?」


「当たり前だ」


 俺はアイテムボックスから金貨を一枚取り出して門番に握らせた。


「これでも開けてくれないか」


 門番は手にした金貨を見つめると目をギョッとさせた。


「あー急に門を開けたい気分になってきたなー。でも、今日の門番を任されてるのは俺の他にもう一人いてな……」


 俺はもう一人の門番にも金貨を渡すと、門を開けたい気分になってくれた。


 おかげで争いなく王都からでることが出来た。

 俺はなんて優しい魔王なんだろうな。


 馬をさらに走らせて、アインス達のいる洞窟を目指した。

 暗くて周りが見えなく迷いそうだが、フィーアのおかげでそんな心配はなくなった。

 暗殺ギルドにいた頃に夜の移動の仕方とかも教わったらしい。


 洞窟に到着して馬を止めると、中からアインスが出迎えてくれた。


「ご主人様、こんな遅くにどうされたのですか?」


「少しトラブルがあってな、中で詳しく話す」


 中に入るとツヴァイがぐっすりと寝ていて、アインスに叩き起こされた。


「ご主人様がお帰りになったというのに、出迎えもせず寝ているな!」


 アインスの奴隷理論を聞いてると気分がいいな。

 いつまでも変わらないでいてくれ。


 アウディとポルシェも洞窟の中に入れて休ませた。

 ここまで走り続けてくれたんだから疲れてるんだろう。

 馬へのご褒美って何がいいんだろう?

 いつかアインスとフィーアに聞いてみるか。


 王都であったことを話すとアインスは怒りをあらわにし、ツヴァイはドライを抱きしめて慰めた。


「怖かったよね、ゼント様に助けられてよかったね」


 ツヴァイも同じような目にあったからか、涙目になって頭を撫でた。


「うん、ご主人様かっこよかった」


「それはよかったね」


「それとね、ドライおもったことがあるの」


「何?」


「ドライのはじめてはご主人様がいい」


 驚きの発言にみんな黙ってしまった。

 何を言っているんだこのチビは。


「ほかの子たちがいってた。はじめてはとくべつで好きな人がいいって……だからドライのはじめてはご主人様がいい」


 ドライがゆっくり俺の足に擦り寄って来た。

 俺の足に頭を乗せると見上げて来た。

 うん。

 全然魅力的に感じない。

 これがアインスとか他のやつらなら違ったが、ドライにそんな気持ちにはならなかった。


 バチッ。


 俺はドライにデコピンした。


「ご主人様……いたい……」


「おまえが生意気なことやってるからだ。そういうのはもっと大きく成長してからにしろ」


「ご主人様はドライのこときらい?」


「そうじゃない、お前がツヴァイぐらいに大きくなったら抱いてやるよ」


「わかった、ツヴァイぐらいにおむねおおきくなる」


 本当に分かっているのか不安だが、ドライの年齢から考えたら6年ぐらい先の話だしからな。

 適当に相手していればいいか。


「ご主人様、すみませんが大事な話があります。出来れば二人きりで話したいです」


 フィーアが思いつめたような声で言ってきた。

 アインス達もなんとなく言いたいことが分かっているからか、何も言って来なかった。


「ついて来い」


 ドライをツヴァイに預けて、俺はフィーアを連れて洞窟を出た。

 アインスの顔は見れなかった。


 洞窟から10メートル以上離れたところで止まるとフィーアは俺に抱きついてきた。


「すみません」


「構わない、どうしたんだ?」


「あの男に襲われそうになった時、怖くなってしまったのです。私の身体はすでに傷つき……汚れていますが、ゼント様と会ってからはこれ以上汚れたくないと思ってしまったのです」


 フィーアは俺の胸に顔を埋めて続けた。


「私もドライと同じ気持ちです。私の全てはゼント様のモノです。ゼント様以外に触れられたくありません」


 顔を上げたフィーアの目は涙が溢れていた。


「こんな身体の私はゼント様に相応しくないのかもしれませんが、ゼント様の愛を少しでもいただきたいです」


 不安など色んな感情が渦巻いていて、涙もせいもあってボロボロだ。


 それでも月明かりに照らされたフィーアの顔は美しかった。


 俺はフィーアの唇にキスをした。


「ゼントさま……」


「お前は俺の『モノ』だ、過去がどうであれ関係ない。未来永劫お前の全ては俺の『モノ』だ。誰にも渡さない渡したりなんかしない」


「はい!私はゼント様の『モノ』です」


「お前の全てを俺に捧げろ」


 そこからはただただお互いの気持ちをぶつけあった。

 外だろうと関係ない。

 声を抑えることもせず、俺達は朝まで求めあった。


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