第3話 図書館で僕たちは……

 それから僕たちの奇妙な関係は始まった。


 クラスでは特に話さず、放課後の図書館に、僕は執筆、彼女は勉強をするために来る。


 席はいつも同じ、僕の右隣に彼女が座る。


 それぞれ自分のことをやりつつも、時々会話をする。

 会話の内容は、小説の話やとりとめのない日常の事だったり、様々だ。


 夏休みも図書館の開館日はどちらから誘うわけでもなく、図書館へ行き、いつもの席に座って、いつものように過ごしていた。

 もっとも連絡を取り合おうにも、彼女のメールやLINEのアドレスを知らなかった。


 おそらく彼女に聞けば教えてくれるだろうけど、なぜか気恥ずかしくて、聞けないでいた。

 そんな事をしなくても、いつも図書館で会えていたから問題はなかった。


 でも、彼女は知らない。

 

 僕が図書館で小説をいつも書いていたわけではない事を。


 彼女に声をかけられるまで、せいぜい週に1,2回だけしか図書館は利用していなかった。

 だけど、彼女に声をかけられてからは、放課後はずっと図書館で小説を書くようになっていた。


 ……彼女に会いたかったから。


 だが、そんなことを言えるはずがなかった。

 

 いつ彼女が来ても会えるように毎日図書館に足を運んでいたのだけど、どうやら彼女もよく図書館を使用するようで、彼女も図書館に毎日来ていた。

 

 週に1,2回利用していた時には図書館で彼女にあった記憶はないが、きっとそれは、彼女の事が眼中になかったからだろう。


 そんな二人の図書館生活が続いた夏休みの終盤の事だった。


 ちょうどシーンの佳境となり、筆も乗っていた頃、閉館を告げるチャイムが鳴る。


「……。仕方ないか」

 

 アプリを終了しようとした時、ひょいと彼女がタブレットの画面を見る。


「あ、ラブラブシーンだ」


「ネタばれ禁止だよ」

 

 僕はアプリを終了させると、ため息をついた。


「人のタブレット覗くのはマナー違反だよ」


 そのおかがで僕は君と出会うことになったわけだけど……


「ごめんなさい、でも気になっちゃうんだよね~」


 茶目っ気たっぷりの笑顔を浮かべる。


「笑ってごまかさない」


「はーい。あ、でも、この癖のおかげで、恋愛戦線のファンを一人は見つけたよ」


「えっ、本当?」


 それは少し興味があった。


「うん、名前は知らないけど、たぶん同級生よ。ファンいっぱいだね、皆月先生!」


「その名で呼ばない……」

 

 その時、強い視線を感じた。

 感じた方向に目を向けると、そこに童顔の少年がいた。

 

 凄い目で僕を、いや僕たちを見つめていた。

 

 少年の表情が百面相のように変わっていく。


 驚愕


 喜び


 怒り


 愛情


 そして、絶望


 正と負の感情がいりまじったその視線に耐えきれず、僕はそっと目を逸らした。


 これだけの強い感情を受けたのは初めてだった。

 

「どうしたの?」

 

 挙動不審な僕を心配する彼女


「いや、なんでもない……、そうそう、そのファンとは仲良くなったの?」


 強引に話をかえ、彼女に聞いてみた。


「いや、話しかけたんだけど無視されちゃった。シャイな男の子なんだね、きっと」


「え、男なの?」


「うん。というか、基本、男の向け小説だよね?」


 驚く僕に、呆れたように言う彼女


「それもそうか……」

 

 女性なのに僕の作品のファンなほうが珍しいのだ。

 正直なところ、彼女を知る前は、読書ウサギさんはネカマだと思っていたくらいだ。


 だから、男性ファンがいてもおかしくない。

 ファン同士

 彼女と、そのファンの子が仲良くなる事も


 だけど……


 チクリと胸が痛んだ。


 僕は、彼女と今のままの関係で、満足できるのかな?

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