Ⅱ第四十話 山道の封鎖
変異石を拾い、リュックに入れた。
山から動物が下りてくる現象、元の原因がこれとはな。
変異石とは入れ違いで、おれはリュックから連絡石をだした。強く握って光らせる。
「ダネル」
「おお、調査は終わったか」
「ああ、ダネルよ、お前、おどろくぞ」
「ちょっと待ってくれ」
ダネルはそう言うと、無言になった。
「・・・・・・馬車を降りた場所で待っててくれ。少し時間がかかる」
それっきり、何も聞こえなくなった。何かあったのだろうか。
コンパスをポケットから出し、方角を確認する。来た道を戻ることにした。
戻る途中で、結界球が点滅しだした。まわりの空気が揺れたように見え、風がくるくる回って石に戻った。
使い終わった結界球は捨て、次の結界球は手に持つだけにする。何かが襲ってきたら、すぐに使おう。
頂上からの帰りは楽だ。下り坂のほうが多い。行きの半分ほどの労力で、おれは最初の道に戻れた。
道の左右、どちらにもダネルの姿はない。
おれは道の真ん中に座り、リュックから袋を出した。野菜と干し肉を入れてある。
チックとハウンドの前に置き、二匹が食べるそれを眺めた。思えば数奇な運命だ。これで二回、変異石をチックが拾った事になる。
ふと夜空を見上げてサソリ座を探した。サソリ座の話を何かで読んだ事がある。暴君となったオリオンを倒すために、女神ヘラが地上に送ったのがサソリ。まさかチックも女神の使いとかじゃないよな。
「うまいか、チック」
チックは葉野菜をハサミで持ち上げると、ビュン! と捨てた。美味しくないらしい。これ、ぜったい女神の使いじゃないわ。
おれはリュックから水筒を出した。
ダネルのやつ、遅いな。何もなければいいが。そう思いながら水筒を口にすると、当の本人がビュン! と現われた。
「ブハッ!」
盛大に水を吹き出した。結界石を使って来たのか!
「お前な・・・・・・ウエッ、変なとこ入った。グホッ」
ダネルは口に指を当てた。
「大きい声を出すな」
なんだ? ダネルが滅多にないシリアスモードだ。
「この道の両側は、どっちも人が塞いでいるぞ。歩いてきたんで時間がかかった」
まじか。誰がおれらを狙うってんだ?
しかし、事前にわかって良かった。ダネルは膝が悪い。杖をついてここまで来るのは大変だっただろう。見ればオデコには汗が浮かんでいた。
おれは水筒をダネルにわたした。ダネルは
「塞いでいるのは、どこのやつだ?」
「わからん。あまり近寄ってもない。馬車は捨て、結界石を使い続けて、ここまで来た」
なるほど。そりゃ正しいな。姿は見えなくても近寄るのは危険だ。
「手持ちの石は使い切った。あとは、お前の球だけだ」
おれは手にしていた結界球を見た。
「四つもあって良かったな。結果、正解か」
「ああ。俺も四つと聞いた日にゃ、ちびりそうになったがな」
ダネルが笑う。ほんと、ロイグ爺さんに感謝だ。さすが親分。
来た道とは反対のほうに進んだ。山道をとおる時間を短くするために東側から入ったが、距離で言えば、こっちの道を進むとアドラダワーの治療院に近い。
杖をつくダネルの速度に合わせ、ゆっくりと歩いて行く。
「おい」
「うん?」
「危なくなったら、走って逃げろよ」
「はいはい」
適当に答えておいた。あっ、オリヴィアを忘れている。
「オリヴィア、出てきていいよ」
言い終わる前に、光の粒が集まった。言われるの待ってたのか。反応早いよ。
「はいはいって、冗談で言ってるんじゃねえ。いいか、よく聞けよ」
おれは手にしていた結界球を光らせた。
「・・・・・・・・・・・・!」
あー、聞こえませーん。そうジェスチャーすると、ダネルが「しょうがねえなぁ」といった苦笑いを浮かべた。
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