Ⅱ第十八話 校庭のカリラ

 校長室を出て、校内を歩いていると子供たちの声が聞こえた。


 声は校庭からだ。休み時間らしい。おっ、学友たちは元気かな。


 校庭まで出ると、いた!


「あっ! おじさん!」

「勇者さん!」


 クラスメートと呼んでいいのだろうか。みんながこっちに駆けてくる。カリラは見当たらなかった。


 集まったみんなが笑顔でおれを見上げる。一人一人の頭をなでた。うわっ、これ、めっちゃ感動する! まるで二十四の瞳!


「おじさん!」

「なんだ?」

「チックは?」

「チック!」

「チック!」

「チック!」


 みんながチックの名を大合唱し始めた。うん。おじさん、ちょっとさみしい。


 校庭の隅にある樹の下に、クラスのみんなで座った。チックとハウンドを取り囲んでいる。その輪から外れ、おれも座っている。うん。おじさんもいるぞ。


 カリラはどうしたんだろう。見わたすと、近くの樹の下で本を読んでいた。


「カリラ!」

「カカカ!」


 こっちに駆けてきて、おれの横に座る。


「休み時間まで勉強しているのかい?」

「うん!」


 がんばるなぁ。でも、それもちょっと心配だ。


「カリラ、勉強も大事だけど、遊ぶのも大事だぞ」

「わたしね、早く魔法使いになりたいの!」


 早くって、カリラの歳だと大天才でも十年はかかりそう。


「カカカを守ってあげるね!」


 おお、おおお! これは、異世界でカカカは初めてモテたかも!


「あっ! そうだ」


 おれはリュックから布で包まれた塊を取りだした。


「これ、イノシシ肉なんだ。お父さんにソーセージのお礼ってわたしてくれないか?」


 学校からの帰りにソーセージ屋に寄るつもりだったが、カリラにわたしても平気だろう。ダネルの親父さんが言うには、巻いた布の下は、うすい木の皮で肉をまいているらしい。けっこう日持ちするって言ってた。


「うん。わかった」


 カリラが受け取る。


「肉屋に肉あげるのも変だけどな」


 おれは冗談を言ったつもりだったが、カリラは笑わなかった。


「お父さんよろこぶ! 今はお肉が少ないから」

「肉が少ない?」

「昨日、山からお猿さんが来たから」


 お猿さん?・・・・・・あっ、野生の猿に店を襲われたのか! これはほんとに早く調査しないと。色んなところに被害が出始めてる。


「カカカ?」

「うん?」

「もう学校こないの?」

「そうだなあ・・・・・・」


 カリラの持っている本をちらっと見た。魔法に関する本だろう。いまだにこっちの世界の古代文字などは読めない。


 カリラはがんばっている。おれにも成長が必要かも。


「今、ちょっと色々あるから、それが終わったら、また来るよ」


 カリラは目を輝かせた。


「ほんと?」

「ほんとだ」

「やくそく?」

「ああ、やくそくだ」


 おれはカリラに「指切り」を教えてあげた。異国ではこうやって約束をすると。


「針・・・・・・1000本・・・・・・」


 あはは。子供のカリラには刺激が強かったらしい。


「よし、じゃあ帰るか」


 おれは腰を上げた。今日しようと思った予定はこなした。アドラダワーの病院に帰るか、はたまたギルドに行って簡単な依頼でも探すか・・・・・・


「いや、待てよ」


 一つ、気乗りしない用事もあった。気乗りはしないが、昨日に思わぬ所でダネルの父親に会った。ああいう事があると、考えてしまう。


「カカカ?」


 下からカリラがつぶらな目で見つめたきた。


「カリラは、もし、お父さんと会えなくなったら、どうする?」

「えっ・・・お父さんと?・・・」


 カリラはそれを想像したのか、口をひくひくさせ、目がうるみ始めた。


「うそうそ! カカカの冗談、じょーだん!」


 冗談と言われ、それでも不安な顔を残したが、うるんだ目は止まった。反省、大反省。


 しかし、そうだよな。家族って大事。やっぱり行くか。ニーンストンにオリヴィアの事を聞きに!

 


 


 

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