Ⅱ第二話 風見鶏

 けっきょく夜まで飲み食いしてしまった。


 上等なワインを飲み過ぎて、フラフラだ。


 家までは馬車で送ってもらった。馬車から降りて御者さんに礼を言う。


 しかし、なんだろう。勇者ってこう、王女様とか助けるのがパターンじゃないか。おれが仲良くなるのは、ジジババばっかりの気がする。


 振り返り、家の玄関に歩こうとして、すっころんだ。自分の家の屋根を見たからだ。


 おれは頭の下に腕まくらをして、星を眺めた。


「いやー、いい星空だなあ」


 完全に現実逃避だ。屋根の上を見たくない。


 寝転んでると、寒くなってきた。夏は終わった。もうすぐ冬が来るだろう。


 おれはあきらめて立ち上がった。家に近づいて屋根を見上げる。


「あのう・・・・・・何かご用でしょうか?」


 見つめた先は返事をしなかった。死霊だ。おれがギルドの前で倒したやつ。


 あの時、黒い霧だった女の霊は、白い霧になっている。だが形は同じだ。そして風もないのに長い髪と服がゆらゆら揺れている。お前は風見鶏か!


 死霊は何を考えているのか、遠くを見つめたようにじっとしている。


 おれのステータスが勝手に開いた。


  名前:精霊

  親密度:20


「・・・・・・ぜったい、イヤ!」


 おれは叫んで家に入った。ピシャリと戸を閉める。


 もう、三匹目の仲間が霊なんて、ぜったい無理。


「やあ、ぼくはカカカ、勇者をしてるんだ」

「あら、勇者さん、うしろに立つ女の影はなに?」


 こんな会話を今後することになる。もう一生モテない。


 おれはチックをテーブルに移し、ベットに倒れ込んだ。寝返りを打って天井を見つめる。


 しかし妙だ。バルマーが死んで、死霊とアンデットも消えたはず。主人の拘束から逃れた「はぐれモンスター」みたいな物だろうか?


 これ、憲兵副隊長のニーンストンに言っておいたほうがいいな。ほかにもいたら、やっかいだ。


 だめだ、酔った頭で考えれることではない。家の中には入ってこないようなので、おれは考えるのをやめ、目を閉じた。

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