第88話 見てはならぬ物
「では、カカカ殿」
ガレンガイルが、ふいに拳を前に出した。
「はい?」
「仲間の誓いを」
オリーブン城でやったやつか。
「隊長、ここではなく、それは城の住民課ですよ」
「勇者であれば、特技でできるはずだ」
えっ、そうなん? おどろいたが、そんな文字はパラメータで見てない。
「無理! おれの特殊スキルに、そんな名前ないもん」
「カカカよ、お主は記憶喪失じゃったの。忘れておるだけで、できるのではないか? 現に妖獣を二匹も従えておる」
言われてみれば、そうかも。自信はなかったが、ガレンガイルに向き合った。
ガレンガイルは、おれの心臓の上に拳を乗せた。おお、これ格好いいな。おれも真似をして、拳をガレンガイルの胸に置いた。
「戦士ガレンガイルの剣、存分に使われよ。勇者殿」
「ああ、使いまくってやる」
二人の身体から小さな光の玉が交換された。パラメータを開いてみる。
名前:ガレンガイル
職業:戦士
レベル:26
体力:310
魔力:0
攻撃力:180
防御力:160
うわあ、強え。さすが師匠。もはや、素手の師匠と戦っても負けるな。そして、魔法はないか。
あら?職業って、もう変わってる。言ったもん勝ちなのかな。いつか自分で「遊び人です」って言ってみるか。いや、そんな事よりスキルを見てみよう。
特殊スキル:二連突き 三連突き 見切り 一刀両断 回転斬り 神速の踏み込み
おお、技のデパートだ。色々見てると日が暮れる。パラメータを閉じた。
ティアがおれの前に出た。ガレンガイルを見習って拳を突き出す。いや、それ、無理だから。
おれは手のひらを向けた。ちょっとつまんなそうに、ティアが手を合わせる。
「ここに両者の愛の誓いとして、新たな船出を祝い……」
「おい、ダネル!」
ダネルが首をすくめて引っ込んだ。この世界でも、似たようなセリフってあるんだな。
ティアが、真っ直ぐにおれを見つめて来る。おれは天井に視線を外した。やべえ、おじさん、キュンと来た。
「えーと、危なくなったら、すぐ逃げるように」
「ヤダ!」
おれは大いにむせた。
「ティア?」
おれはティアに視線を下ろした。まだ真っ直ぐに見つめてくる。
「あたし、今度は足手まといにならない」
「前もなってないよ」
おれは反論したがティアの視線は動かない。まいったな。
「じゃあ、これだけ守ろう。ガレンガイルは頑丈だ。彼の後ろにいるように」
ティアはガレンガイルを見た。ガレンガイルがうなずく。それから、マクラフ婦人を見た。婦人もうなずく。
「わかったぁ」
「よし」
二人の身体から小さな光の玉が交換された。パラメータを開く。
名前:ティア
職業:武闘家
レベル:12
体力:150
魔力:0
攻撃力:70
防御力:60
ええー! おれまだレベル11なのに、それ超えてんじゃん!
どんだけ頑張ったのよ。もうやだ。ティーンネージャーの熱量なんて嫌い。
特殊スキル:クリティカル・ストライク キコーダ
スキルが増えてるな。なんだろう「キコーダ」って。
身長:162
体重:48
バスト:77
ウエスト:58
ヒップ:82
親密度:22
バ! バストが縮んでる! 身体が鍛錬で引き締まったんじゃなかろうか。
……見てはいけない物を見た。おれは見なかった事にして、そっとパラメータを閉じた。
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