第74話 二度目の脱獄

 チックに鍵を取ってもらい、牢屋を出た。


 部屋の扉を少し開けて、廊下をうかがう。人影はない。


 さきほどガレンガイルが三番隊は街の警備と言っていた。一番隊と二番隊は明朝に総出動だ。それに備えて休んでいるだろう。つまり、意外に今は人が少ないと予想できる。


 小走りに曲がり角に行き、先を見た。まっすぐ行けば玄関。だが両脇に憲兵がいた。


 引き返して反対に進む。扉が一つあった。耳を当てる。よし、中に人はいないようだ、と開けたら倉庫だった。小さい窓がある。あそこから出よう。


 窓から出ると、裏の練兵場だった。なるべく暗がりを通るようにして、街に戻る。ダネルの道具屋に走った。


 道具屋の前に着くと、店先に並んだ植木鉢の一つを持ち上げ、逆さにした。花と一緒に鍵が落ちる。


 ダネルが以前に教えてくれた。予備の鍵をここに隠していると。おれが鍵を持って帰った一件で懲りたらしい。


 道具屋に入ると、ダネルはいなかった。グレンギース交渉官から連絡は行っただろうか?


 教団の場所がわからない。誰かに聞かないといけないが、ギルドに行けば憲兵に見つかるかもしれない。


 とりあえず、ここで誰かからの連絡を待つしかなさそうだ。グレンギースか、ミントワール校長か。いや、アドラダワー院長もいる。どこからかは連絡が来そうだ。


 灯りは点けず、じっと待った。意外に誰からも連絡は来ない。戸がいきなり開いて、飛び上がった。ダネルだ。


「おい、おどかすなよ」


 おれの言葉にダネルからの返事がない。様子が変だ。おれが駆け寄ろうとしたら、ダネルはその場に倒れ込んだ。


「ダネル!」


 うつ伏せに倒れたダネルをひっくり返した。腹が真っ赤だ。斬られている。


「こっちだったか。お前の家に寄って損したな」


 そう言ってダネルは意識を失った。おれは回復石をリュックから出そうとして、手を止めた。回復? マクラフ婦人だ!


 ダネルを肩に担ぎ、ギルドへ向かった。行く途中、離れた通りに若い憲兵がいた。目が合った。憲兵がこっちに向かってくる。くそっ! おれは足を早めた。


「マクラフ婦人!」


 ギルドの扉を蹴り開けて叫んだ。マクラフ婦人がおどろいてカウンターから出てくる。


 おれは床にダネルを横たえた。その血だらけの腹を見て、婦人はすぐにポケットから大きな羽ペンを出す。


 婦人はダネルの額に手をやった。二人の身体が鈍く光る。


「ハサミ! 誰かハサミ持ってきて!」


 婦人の言葉に職員のひとりがあわててハサミを持ってくる。それを受け取ると、ダネルの服を切り、お腹を出した。傷は二ヶ所。


「あなた、回復魔法は?」

「できない。あっ! 回復石はある!」

「傷口を押さえて、直接そこから力を送って!」


 おれは片方の手で回復石を握り、もう片方で左脇腹にできた傷を押さえた。指の間から血があふれた。石から温かみが伝わってくる。それを傷口に送るように念じた。


 マクラフ婦人は、もう一つの傷口に回復魔法をかけた。その後、もう一度、額に手をやり回復魔法をかける。


 おれの回復石の鈍い光が止まった。傷口を押さえた手を離してみる。血は出てこない。止まったのか。


 マクラフ婦人は、その場にへたり込んで息を切らした。


「だめ。わたしの魔力を全部使ったけど、血が出すぎだわ」


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