第63話 酒場

 酒場に入った瞬間に、ぎょっとした。客のほとんどが憲兵の黒服だったからだ。


 あっちの世界と変わらないようで、酒場はそこに居着く業種がかたよるようだ。元いた世界でも漁師が集まるスナックと、土建屋が使うスナックは違った。


 隊長が入って来たのを見るやいなや、客の大半が起立する。ガレンガイルが手を上げて挨拶すると、また座って飲み始めた。


 奥のテーブルに座る。ハウンドは足元に置き、チックはテーブルの上に置いた。店員が来たので注文は隊長にまかせた。


「仲間も食事はするのか?」

「チックは草食、ハウンドは肉食です」


 隊長は生肉と生野菜を一つかみ、と付け加えた。


 店員が首をひねったので、おれは動物を相席させていいか聞く。すると初めて二匹に気づいたようで、おどろきながらも納得したようだった。


 エールがまず来る。ここの流儀は乾杯するのか、飲み干すのか? と隊長を見ていたが、ニ、三口つけてテーブルに置いた。


「人の道を走ってきた、そう聞いたが本当か?」


 あの話を早く聞きたいようだ。おれはうなずく。


「おれとダネルが、酔い潰れて寝ていた夜更けです。家の外で犬が吠えたんです」


 これのことか? というふうに隊長がテーブル下のハウンドを指差した。おれはもう一度、うなずく。


「おれは、外に出ました。月は雲に隠れ、暗い夜更け。道の向こうから馬蹄が聞こえるんです。パカラパカラと」


 隊長が聞きながらぐいっとエールを飲んだ。


「馬が来た。いや、形だけは馬だ」

「どう違う?」

「目が黄色い」


 その時、うしろで「ひっ」と声がして、パリンと陶器が割れる音がした。振り返ってみると、隣席の若い憲兵だ。衝立の上から顔をのぞかせていた。


「盗み聞きとは、趣味が悪いぞ」


 ガレンガイルが注意した。


「ですが隊長、あの話でしょう。気になりますよ」


 ジョッキを落とした若い憲兵が言った。


「ふむ」


 ガレンガイルが席を立った。ありがたい。店を変えてくれるようだ。おれも立ち上がる。


「魔獣の一件を聞きたいやつは、他にいるか? 当事者の勇者カカカが来ている」


 おーい! ここにダネルがいたら、おれは後ろに倒れただろう。


 ガレンガイルは店中に響く声でおれを紹介した。店にいた客の半分、二十人ほどが一気におれたちのテーブルに詰め寄る。


 これでは聞きづらい、ということで憲兵たちは、近くのテーブルを片付け、くっつけた。


 さすが憲兵隊、見事な連携で数分も経たないうちにおれを囲む席を作った。って、おい、ここはボーイスカウトでおれは教官か!


「では、カカカ、よろしく頼む」


 頼む、じゃねえよ! もうガレンガイルとは二度と飲むまい。


 みんながおれを見ている。もうやけくそだ。エールを一気に飲み干し、最初から話す事にした。

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