第38話 初のパーティー申請
今朝は珍しく肌寒い。おれはぶるぶるっと体を震わせた。
島の西側にあるオリーブン城の入り口。そこで、ティアを待つ。
登城する人並みの中に、赤毛のショートヘアが見えた。
「おまたせ!」
そう言って現れたティアの格好を見て、おれは、ぽかんと口が開いた。白いレースのブラウスに、グレーの長いスカート。
「それ、学校の制服?」
「はい! 今日は見学、ありがとうございます!」
「いや、パーティー組むんだけどな」
「ええ! 実技もあったの?」
まあいいか。戦闘に加わることはないだろう。
ふたりでオリーブン城に入り、冒険者の窓口に並ぶ。冒険者になりたてだと一目でわかる貧弱装備のおれと、女学生。完全に浮いていた。
列が進み、おれたちの番になる。窓口の女性がおれたちを見て、嫌悪感が丸出しの顔をした。違うの。おっさんが若い子をたぶらかしてるわけじゃないの。
「パーティー申請を、お願いします」
「では、お互いに向き合って下さい」
向き合う? 意味はわからなかったが、とりあえずティアと向き合った。
「お互いの胸に手を当てて」
「ええ?」
「パーティーの設定をしますので」
何? そんな儀式がいるの?
「あたしは気にしないから、大丈夫ですよ」
そうか。この世界の人間にとっては常識か。ティアは気をつけをし、目を閉じた。
うわぁ。この時におれの心を満たした感情をひとことで言えば「甘酸っぱい」これだ。学生時代にこんな思い出が欲しかったなぁ。
しかし、いくらツルペッタンとは言え、おっさんがさわっていいもんでもなかろう。
「ほ、他のやり方、ありますか?」
窓口の女性は不思議そうに首をひねったが、別の方法はあった。
「では、手のひらを合わせて下さい」
向き合ったまま、おれは右手を、ティアは左手を上げた。二つを合わせる。
おいおい、これで「汝、この者を愛し」とか言い出さねえよな。おじさん、雰囲気に飲まれて「誓います」って言っちゃいそう。
「はい、息を吸ってー、そのまま動かないでー」
予想に反して、窓口の女性はレントゲン技師のように言った。
二人の身体から小さな光の粒が飛び出し、お互いの中に消えていった。チックの時と一緒だ。
「はい、終了です。次の方―」
おれは額の冷や汗をぬぐいながら、城を出た。
「ねえねえ、この特殊スキルのアナライザー・スコープって何?」
びっくりしてティアを見た。おれのパラメータを見ているようだ。そうか、仲間になると見れるのか。
「ええとね、モンスターの数値が見れるんだ」
人間も見れる、とは言えない。
「すごーい!」
単純に感心している。おれも知ってはいるが、ティアのパラメータを出した。
「ティアはええと、魔法はゼロなんだな。んで」
初めて見るふりをして、ティアの数値を眺める。
「二ページ目は見ちゃダメ!」
ティアは後ろからおれに飛びつき、両目をふさいだ。
「わかった! おじさんは見ない。ぜったい見ない」
ティアの手を振りほどいて、おれはパラメータ画面を消した。古今東西、女性のスリーサイズを見るのはマナー違反らしい。
スリーサイズをパラメータ画面に表示する設定をしたのは誰なんだろう。現実の世界ではフェミニストに抗議されそうだが、おれはグッジョブ! と言いたい。
まわりの人が、けげんな目でおれたちを見ている。
「ティア、とにかく、ギルドに行こう」
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