第34話 ケンカした三男坊

 ギルドを出たおれは両替所に寄り、水晶とアメジストを両替する。


 この日はここまでにして、家に帰ることにした。どこかで食料を、とも思ったがやめた。氷屋で食べることにする。


 退院した次は、牢屋から出所。オヤジびっくりするだろうな。


 そして、出所と言えばビールだろう。なにかそんな昔の映画を見た気がする。捕まってたのは一晩だけど。


 家に一度帰り、身体を洗ってから出掛けるつもりだった。それが家の前で予想外の人影に身を構えた。ネヴィス三兄弟の三男坊。


 ちょっと、うんざりした気分になった。今日はラッキーな日になるはずだった。幸運の女神のホットラインをゲットしたのに。


「まだ用か?」

「そう、構えるなよ」


 三男坊に争う気はないようだ。


「鍵を取りに来ただけだ」

「鍵?」


 あっ! と思いだした。兄弟の店に渡せば良かった。リュックから道具屋の鍵を出し、三男坊に手渡す。


「よくわかったな。家が」

「俺は顔が広いんだ。赤いサソリを連れてるやつなんざ、見つけるのは早いぜ」


 おれは肩のチックを見る。チックは「おれのことかー!」とでも言うように、ハサミを振り上げた。


「もう来ないでいいよ」


 おれはそう言って家に入ろうとした。


「一晩でよく帰ってこれたな。一杯おごるぜ」


 任侠映画か。まあでも、飲みたいのはたしかだ。


「ここから少し歩いた所に砂浜がある。氷屋があるんで、そこで待っててくれないか? 身体を洗ったら、すぐ行く」


 三男坊、おれが指したほうを見る。


「わかった」


 それを聞き、おれは家に入り木戸を閉めた。




 氷屋に着くと、三男坊はオヤジと談笑してた。まだ何も頼んでないらしい。意外に律儀だな。


「なんでもいいぜ。俺が持つから。と言って、なんでもはねえか」


 そう言って店内を見まわす。よし、なら思いっきり食べてやろう。


「羊肉パンを二つと、エールを二杯。帰るときに持ち帰りで、もう一個」

「わかった。俺にも同じものを」


 三男坊は、オヤジにそう注文した。席に座る。


「ダネルだ」

「はあ?」

「おれの名だ。ダネル・ネヴィス」

「そうか。おれは」


 そこまで言って、言葉に詰まった。


「勇者カカカだ」

「カカカか。カカカか?」

「カカカだ」

「そうか」


 ちょっと二人で黙った。


「変異石、まだ探してるのか?」

「ああ、めったにないほど、でかいって話だ。って、おめえ! 俺らは黄色い石としか言ってねえぞ」


 おれは思わず笑った。薄々思ってたんだが、こいつ、ノリがいい。


「あれは、オリーブン城に渡した」

「もったいねえ!」

「お前みたいなのが来るからな。手放した」


 今度はダネルが笑った。羊肉パンが四つと、エールが来る。二人、ほぼ同時にエールに口をつけ、一息ついた。


「うまいな」

「だろう」

「これ、一杯いくらだ?」

「銅貨一枚」

「おい、最高の店だな」

「だろう。おれの行きつけだからな。もう来るなよ」


 ダネルがまた笑う。それからしばらく無言になり、羊肉パンを食べ、エールを飲んだ。


「そういや、お前の兄貴たちはどうしてんだ?」

「長兄は、今でも怒り心頭ってやつだな。だが、安心していい。兄貴はな、そういうのが大の苦手なんだ」


 ダネルはそう言って、おれの肩口を見た。


「そうなのか? 大男のくせに」


 ダネルは苦笑した。


 おれはチックをテーブルの上に置き、葉野菜を渡した。テーブルの端に持っていき、食べ始める。それを目で追っていたダネルが言った。


「こいつ、ひょっとして仲間か?」

「仲間だ」

「おめえ、変わってるなー」


 この三兄弟には言われたくない。だが、ダネル・ネヴィス、なんとなく憎めないやつだ。


 その後、何をしゃべるでもなかったが、エールをもう一杯飲み、氷屋をあとにした。

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