第22話 サソリが胸ポケットって
治療院を出る時に、奇異な目で見られた。それは乗り合い馬車に乗っている時も同じだ。
とにかく、虫カゴのチックが動きまわる。ハサミを振り上げ「出せー!」と抗議が激しい。
街に着くと、おれは物陰に隠れた。虫カゴを顔の正面に持ち上げる。
「チック、出してやるけど、ぜったい、人前で出てくるなよ」
革のリュックには入れれない。血の跡が残ったおれの服が入っている。洗濯はしてくれているが、全部は落ちなかったらしい。今着ている服は、治療院がくれた麻の服だ。
やむなく胸ポケットのフタを開けた。チックを入れる。この服の胸ポケットは大きいから、窮屈にはならないだろう。
フタだけ締めて、ボタンは外したままにする。
「テト、おいで」たしかナウシカは、そう言ってたな。あれはキツネリスだったか。かわいかったなー。
胸ポケットのフタが上に動いた。
「チック、め! 出てくるな!」
チックはポケットの中に戻っていった。
サソリがペット。もう絶対モテない。ゲームの世界で美女にウハウハという夢は捨てよう。
両替所でアメジストを100Gに替え、ギルドに向かう。
ギルドに入った瞬間、職員の何人もが手を止め、おれを見た。これは「さーせんでしたー!」と謝るべきなんだろうか。迷っていると、職員はすぐに仕事に戻った。
依頼書の壁に行く。三回目の依頼は慎重に選ぼう。アメジストが残っていて助かったが、それでも持ち金107G。借金まである。
見られている気がして振り返った。窓口の無愛想なおばちゃんが、おれを見ている。くいっくいっと指で「こっちに来い」と指図した。
そうだった。おれはまだ、依頼を受けれないんだった。おばちゃんのとこに行く。
「いや、見てただけで」
おばちゃんは、おれの話は聞かず、銀貨を二枚出した。
「規定違反だったので、料金は二倍。いいわね?」
規定違反? ああ、あの依頼は100Gだった。だから200Gになったのか。ありがてー!
そして、これで新たな依頼が取れる!
壁に向かおうとすると、おばちゃんに止められた。
「ちょっと、こっちに」
おばちゃんが席を立った。カウンターに沿って端に行く。おれも横に移動した。
端まで歩くと戸があり、がちゃっと戸が開いた。おばちゃんがアゴをしゃくる。中に入れって事か。
「お、お邪魔します」
一応、挨拶をして中に入った。
職員側は、木の机が並んでいて、皆が黙々と仕事をしている。
職員側に入ってすぐ横の壁に三つの扉があった。その内の一つに案内される。
応接室のようだった。小さめの部屋に、四人がけテーブルがある。おばちゃんは不機嫌そうにイスを大きく引き、座って足を組んだ。
これは、例の爆破事件についての話だろうか。おばちゃんの対面に座った。
おばちゃんは組んだ足をブラブラさせ、腕を前に組んだ。腕に乗った胸が大きい。おばちゃんは何歳なんだろうか?
いつもブスっとしてるから、老けて見えるだけで、意外と、そんな行ってないのかも。
赤毛の長いカールが余計だ。ふっくらした顔が、余計にふっくらして見える。それでも腰まわりは太ってない。胸と尻は豊満なのに。
いかん!
おれは視線を外して天井を見た。エロい妄想してる場合じゃない。お金の取り立てをどうやってかわすか?
アドラダワー院長が、まだ話をつけてないかもしれない。院長の名を出していいのだろうか。変異石の話をするべきなのか。いや、すでに知っているのか。
待てよ。立ち入り禁止か! その可能性はある。このギルドが使えないと、おまんまの食い上げだ。
これはやばいぞ。じっとり、背中に汗が出てくるのを感じた。
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