第12話 ギルドで初依頼を受ける

 島の東にある城から、西の港町に戻った。


 ギルドに着くと四つある窓口は、すべて埋まっている。暇つぶしに壁に貼られた依頼を眺めた。


 星三つの依頼は高額な案件が多い。500G以上の依頼もあった。輸送船の守り人、そんなのも見つけた。


 海上にもモンスターは出るのだろうか? 小さな舟の下に、巨大イカの影が迫る映像が浮かんで身震いした。やべえ、リアルだと、めっちゃ怖い。島の外に行くのは、かなり経験を積んでからにしよう。


 氷屋の依頼は、星三つではないだろう。星一つの依頼が固まった中を探した。


 あった! 氷屋の依頼を見つけた。


 隣のおっさんが、星二つの依頼を取っていくのを見た。これ、外していいんだな。


 窓口が空いたので氷屋の依頼を持っていく。うへぇ、空いていたのは、また無愛想なおばちゃんの窓口だ。


 言われる前に冒険者証を出した。おばちゃんは、面倒くさそうに依頼書にハンコを押した。ハンコは冒険者証と同じ、オリーブの紋章。


 用が済んだら、さっさと帰る。おそらく、このおばちゃんといくら話しても親密度はゼロのままだろう。


 乗り合い馬車に揺られ、人生初の依頼を解決しに行く。


 氷屋の近くで馬車を降り、のんびり歩いていると、向こうで手を振っているのが見えた。


「こんちわー!」


 気軽に挨拶をしたが、氷屋のオヤジは焦っていた。早くしないと、畑の作物を全部食い尽くされてしまうそうだ。それはまずい! 畑に急いだ。


 数をざっと確認する。フナッシーが十匹、デフナッシーが十匹というところだ。


 棍棒を取りだして、さっそく駆除にかかる。まず手始めに、一番近いデフナッシー。


 棍棒を振り下ろした。ぐしゃっと潰れた音がして、デフナッシーは死んだ。水晶のカケラを取りバックに入れる。


「痛っ!」


 右足に激痛が走った。下を見ると、革のサンダルから出た親指、デフナッシーが刺している。


 こいつ、尻尾が針なのか!


 ぶっ潰そうと棍棒を振り下ろして、自分の足の指に当てた。激痛に思わず倒れる。立ち上がろうとして左手をついた。


「痛ってえ!」


 地面についた左手を別のデフナッシーが刺しやがった! 腹が立って近くの石を掴んで叩く。一撃じゃ死なない。二度三度叩いた。


「痛ってえ、くそっ!」


 また右足を刺された。反対側に身をよじり、石で連打。


 とりあえず距離を取ろう。あわてて立ち上がろうとしたが、右足が動かない。じんじんと痛みもする。


「毒か!」


 左足だけに体重を載せ、四つん這いになった。


 棍棒はだめだ。両手に石を掴む。右からデフナッシー。右手の石で叩く。二度目を叩こうとしたら一旦逃げた。そうしていると左から来た。左手の石で叩く。


 これはもう、モグラ叩きだ。押し寄せる八匹のデフナッシーを必死で叩いた。


 デフナッシーは思ったより素早い。叩ければいいが、外すとすぐ逃げる。それに思ったより頑丈。一撃では死なない。三回は叩く必要があった。


 一進一退の攻防だったが、着実に数は減っている。しかし、おれの動きも疲労で鈍い。叩いても、当たったり当たらなかったり。そろそろ、腕をあげるのもしんどい。


 何回叩いたのか解らなくなったころ、残る一匹まで追い詰めた。


「来い! このやろう!」


 デフナッシーに言葉は解らないだろうが、おれに向かってガサガサやって来る。その時、首筋にガサガサ這い上がってくる物があった。


「うっわ!」


 あわてて手で払い落とす。フナッシーだった。いや、こいつは無害だ!


 デフナッシーは?


 顔を上げた。すぐ前にいる。


 デフナッシーが、ぴょんと跳ねた。体を丸め、尻尾の針を前に出す。


 左目に当たる! 首を捻って避けた。まぶたの上にかすった。


 うしろの地面に着地したデフナッシーに石を投げる。当たった!


 おれは、飛びつくように倒れ、もう一つの石で叩いた。危ねえ! 目に刺さったら、さすがに死ぬんじゃねえか?


 ほんと、ゲーム内で死んだら、どうなるんだろう? それを確かめる手段はないのか? また、復活の呪文、いわゆる生き返らせる魔法があるのか? わからないことが多すぎる。


 おっと! その前に、まだ戦闘は終わってない。まだフナッシーが残っていた。右足が毒でマヒしているので、棍棒を支えにして立った。

 

 なんてこった。ほんとに棍棒の特殊効果を使ってるよ。たしか、特殊効果に「杖の代わりにもなる」って書かれてあった。


 フナッシーは、昨日と同じだ。うろうろと逃げるだけ。


 おれは棍棒の杖をつきながら、それをよたよたと追いかけた。足元に来たら杖の先で潰す。


 十匹ほどを潰すと、もういないようだった。精根尽き果て、その場に座り込む。


「毒消しのお茶を作っとこう」


 オヤジはそう言って、ティアを連れて店に帰っていった。


 おれは疲れた。畑の上に大の字になって寝転ぶ。


 最悪の戦闘だ。


 おれには、アナライザー・スコープというスキルがある。それなのに、よく見ていない。思い返せば、家電の説明書とかも、ざっと読むタイプだ。


 カサカサと音がして、そっちを見るとフナッシーだった。野菜の裏に隠れていたらしい。


 なんだか、もう戦闘をする気になれない。手のひらをフナッシーの前に置くと、カサカサと乗っかってきた。こいつバカだな。畑の外に放り投げた。


 足も腕も、パンパンに筋肉痛だ。重い身体を持ち上げる。


 水晶を拾い集め、右足を引きずりながら氷屋の店に戻った。


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