3ヶ月しか生きられなくても
@kaoru-miyatuki
第1話 初めての出会い
8月某日。
雲の隙間から若干の光がこぼれる昼下がり。
婆ちゃんの見舞いで病院を訪れていた。
その病院はこの街だったら1番大きな総合病院。
母さんは仕事で北海道に、父さんも仕事でスペインに居るのでここ、広島には今は俺一人で住んでいる。
なので、親代わりに面倒を見てくれた婆ちゃんだが先週体調を崩して今この病院に入院しているという訳だ。
婆ちゃんの部屋は302号室。
俺は部屋のドアを3回ノックした。
「はーい、入ってきてええよ」
その声を聞いて安心した。
「婆ちゃん、体調どう?」
「なーに、ちょっとした肺炎じゃきに。わしゃ全然元気じゃよ」
「そうか、それならよかった」
この前まで集中治療室に居て会えなかったので、元気な姿を見ることが出来て良かった。
「母さんは来週くらいに帰ってくるからその時お見舞いに来るってさ。あと林檎持ってきたよ。むごうか?」
「じゃあちょっといただこうかのぉ」
俺は林檎と果物ナイフを取り出し、皮をむいで何等分かに切り分け、タッパーに入れた。
「食べて余ったら冷蔵庫に入れといてな」
「わるいのぉ、陸斗」
「じゃあまた来週ね」
そう言い、部屋を出た。
そして廊下を歩き始めてすぐの事。
俺の横を通った女の子。
端正な顔立ちに、身長は俺の肩くらいまでだろうか。
そしてどことなく見たことのある気がする。
どこかで会ったことがあるような。
そう思っていた時、ドンッと鈍い音が後方からした。
慌てて後ろを振り向くとさっきの女の子がこけてしまっていた。
俺は咄嗟に彼女に駆け寄った。
「大丈夫?」
「う、うん大丈夫。」
しかし、彼女は歩こうにも自力で歩く事が難しそうだった。
「おぶってあげるから、乗って。何号室?」
「303」
彼女は軽かったのですんなりとおぶる事が出来た。
婆ちゃんの部屋の隣だ。
俺は直ぐに部屋に向かい、ベットに下ろしてあげた。
そして怪我をしているようだったのでナースコールのボタンを押した。
もうすぐすれば看護師さんが来るだろうと思い、
「それじゃあ」
と言って部屋を出ようとした。
「待って!」
そう呼び止められたので振り返る。
「助けてくれてありがとう。それにどこかで会ったことのあるような顔ね。」
やっぱりそうだったか。
「俺もそう思ってた。君の名前は?」
「島村光」
その名前を聞いて思い出した。
彼女は小学校の時、花火大会で出会ったあの子だ。
1度しか会ったことがない事に加え、10年近くの月日が経っている事から思い出すことが出来なかった。
「花火大会の時の?」
「うん、あの時の」
と話しているうちに看護師さんが部屋に来た。
「大丈夫ですか!?」
ここに居ては邪魔だなと思い今度こそ彼女に別れを言った。
「また会いに来て。あなたとはもっと話したい事があるから」
「わかった、じゃあまた会いに来るよ。どうせ夏休みは暇なんだから」
そう言い、部屋を出た。
俺の背中には、かすかに彼女の感覚がまだ残っていた。
3ヶ月しか生きられなくても @kaoru-miyatuki
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