花火
茂みひとつ分向こうの住民は、見つめる視線に案外気付く様子もない。先ほどから姿形、声、どれも筒抜けの状態であるのに。同時に私のこのだらしない格好も、おそらく彼らからははっきり見える距離にいるのに。彼らは彼らのスペースで家族を楽しんでいて、私はそんな彼らを楽しんでいた。
彼らの手の中には、ピカピカ光る花火がひとつ。どうやら、母と小学生ほどの娘とさらに小さい弟、この三人で花火を楽しんでいるらしい。お姉ちゃんが弟の手に何かを握らせ、そこに母が小さく火を灯す。火が急に大きくなったかと思えば、赤から黄色へ、黄色から緑へ、緑から赤へと色を変える。男の子は楽しそうに、棒を左右に振った。それに合わせて色変わりの光も、左右にぐらぐらと揺れてみせた。彼はきゃっきゃと笑い、姉はそんな弟を注意するようにそばに寄り、母は二人を見守った。
たったひとつのはかない光を、若い家族が囲んでいる。花火が光を吐き、色を変え、老いてゆくように、家族もまた老いるものだ。光を放ち、形を変え、老いてゆく。
ベランダから見下ろした花火とその家族に、トキを感じてうっそり笑った。花火は、もう燃え尽きそうだ。
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