第97話 黒デンチ

「これを見てくれ。どう思う」


 ランドルフが厳重に封がされた箱から取り出したのは石の板だった。

 育児室の子供が一斉に泣き叫ぶ。


「なんて物を持ってくるんだ。懇願力よ、浄化しろ」


 石板から立ち昇る黒い負の魔力が消え、石板は普通の石になった。


「よしよし、怖かったな。怖いのはなくなったからな」

「悪かった」

「ほんとだよ。あんな物どこで手に入れた?」

「サバル国でだ。エリーズのカデンの類似品はこれで動いている」

「負の魔力を圧縮して、石の板に閉じ込めたのか」

「そのようだ」


「危険だな」

「そうだ。黒デンチと名付けた」

「じゃ俺達のは白デンチだな」


「問題は黒デンチを使うと、負の魔力がまき散らされる」

「エリーズは負の魔力が消えて、サバルには負の魔力が増える。そしてお金も入ってくる。一石三鳥だな」


「サバルの国民は、負の魔力の危険性を熟知していない。これを周知させると大混乱が起きる」

「そうだよな。大地が汚染されて世界の危機だなんて知ったら、移民が物凄く発生すると思う」


「どうする」

「輸入禁止には出来ないのかな」

「強引にやればできるだろうが、今の王も盤石とは言い難いからな。人気を落とすような政策は採りづらい」


「今、俺達に出来るのは備える事だけだ。よし、修正パッチを作ろう」

「黒デンチを浄化するような物を作るのか?」

「いずれ、サバルの国民が危険性に気づいた時に使えれば良い。それと白デンチの値段を下げよう」

「価格競争になるな。黒デンチの普及がますます進む」


「仕方ないだろ。黒デンチの方が安いんだから」

「普及が進むのは不味い気がするな」


「俺もそう思う。何か上手い手はないかな。付加価値だな。商品の値段を下げられないなら、おまけを付ける」

「何か良い案があるのか?」

「仕方ない。ピーラーを仕入れて来る」


 地球に行き、金貨を換金して、ピーラ―を大量に仕入れる。

 その他にも台所用のスポンジとか洗剤とかも100均で大量に仕入れた。


「ふむ、この皮むき器は便利だな。類似品を作ろうとしたら、値段が釣り合わない」

「だろ。これで白デンチの方が優勢になるはずだ」


 こんな事でなんとかしたい。

 100均の仕入れはなんとかならないかな。


 仕方ない。

 ウイークリーマンションを借りよう。


 ネットで100均の商品は、箱買いできる。

 後は金貨の換金だけだ。

 しょうがない。

 実家に手紙を出すか。


 文面は紆余曲折あり、出稼ぎしてます。

 元気にやっているので心配しないで。

 捜索願は取り下げて下さい。

 これで良いだろう。


 金貨を一枚と今の新聞を持った写真を一緒に入れておこう。

 手に入れたばかりのスマホの電話番号も書き添えておく。


 ごめんよ、まだ帰れない。


 さてと、金の買い取りを探すか。

 電話したら、正体不明な金貨でも引き取ってくれるという所があった。

 胡散臭いが。

 電話帳に載っているし、質屋もやっているみたいだから大丈夫だと思いたい。


 そして、出張買い取りに社員が来た。


「まいど、八福神質屋です」

「これなんだけど」


「いっぱいありますね。手錠付きのアタッシュケースを持って来て良かった。ではこれが受け取りです。代金は振り込みでよろしいので」

「ええ、そこは信用してるよ」


「ちなみにこの金貨の出所は?」

「金貨が流通している国があってそこで稼いだ」


「またまた、ご冗談を。流通している金貨は全て知っています。国内に流通しているなら、国外にも出てるはずですよね」

「でも嘘は言ってない」


「アフリカの奥地とでも思っておきますよ」

「そうしてくれ。ところでなんで八福神なのよ」

「ああ、それですね。手前どもが八番目の福の神という事で」


 やはり詮索されたか。

 今度から延べ棒にするか。

 それなら、戦時中の闇資金だとでも言える。


 マルサが飛んできそうだが、税金の申告はちゃんとするつもりだ。

 どうやって金貨を稼いだかは、職業上の秘密で押し通そう。

 無理があるのは分かっているが、税金を払えば問題ないだろう。

 いざとなったら異世界に逃げるつもりだ。


 家族から電話が掛かって来て怒られた。

 どうしても帰れないと言ったら、呆れられたが、納得してくれた。

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