第73話 慣れない外交

 通信魔道具の着信の魔石が光る。

 あれっ、デュラ国からかな。


「もしもし、リョクテです」

「俺はサバル国、国王マーヴィン・サバルだ」


 通信の魔道具はサバル国にもあったのだな。

 戦争についての謝罪が聞けるのかな。


「で、なんです?」


 ぶっきらぼうになったのは仕方ない。

 腹芸なんかできない。

 俺も少し頭にきているんだ。


「その何だ。騒ぎを起こした貴族の首がいるか?」

「首より謝罪が先でしょう」

「貴族が勝手に馬鹿な事をした。許せ」


 謝罪にはなってないが、いいだろう。

 謝る気がないのに謝ってもらっても嬉しくない。


「別にいいですよ。攻めてきたらまた返り討ちにします」

「謝罪を受け入れたと理解したぜ」

「受け入れたくはないけど。そっちがその気なら、出来る事はするって意味です」

「そうかい。まあ色々とあるかも知れないが、今後ともよろしくな」

「仲良く行きたいですね」


 むかっ、頭に来た。

 すみませんの一言もなしかよ。

 許せって上から目線にも程がある。

 完全に頭にきた。


 ランドルフの所に行こう。

 あれを実行に移すぞ。


Side:サバル国の国王


 捨て駒の貴族は上手く役目を果たしてくれたな。

 ピピデに砦まで攻撃できる方法があるのが分かった。

 大収穫だ。

 切り札の類だろう。

 まさかこっちの都まで届くとは思わないが、かなりの所まで届くとみたぜ。


 さて、謝罪しておくか。

 使節を送るまでもないな。

 通信の魔道具で十分だ。

 通信の魔道具を起動する。

 デュラ国からピピデの通信魔力周波数は聞いている。


「もしもし、リョクテです」


 普通に応対したな。

 こういうのは下の者が取り次いだりするものだと思うが。


「俺はサバル国、国王マーヴィン・サバルだ」

「で、なんです?」


 声に怒りが少し感じられる。

 まあそうだよな。

 攻められたら誰もそうなる。

 感情を隠す奴だとおくびにも出さないがな。

 そういうタイプではないらしい。


「その何だ。騒ぎを起こした貴族の首がいるか?」


 いきなり本題をぶつけてみた。

 首がいると言ったら首を送ってうやむやにするつもりだ。


「首より謝罪が先でしょう」


 謝罪を要求してきたな。

 まずは謝罪でその次は賠償か。


「貴族が勝手に馬鹿な事をした。許せ」


 これぐらいの返しでいいよな。

 もっとはっきりした謝罪を要求されたら、少し譲歩してやろう。

 そうすればこちらは譲歩したんだから、お前も譲歩しろと交渉できる。


「別にいいですよ。攻めてきたらまた返り討ちにします」


 あっさりと受け入れたな。

 攻めてきたら返り討ちにすると言ったな。


 二つの事が分かる。

 こちらから攻めないかぎり反撃はしないという事だ。

 したくても出来ない。


 いや、そうでないだろう。

 切り札の遠距離攻撃でどれぐらい戦果が挙げられるか不安があるのか。

 それとも連発できない事情があるのかもな。

 おいそれとは使えない攻撃なのかも知れない。


「謝罪を受け入れたと理解したぜ」


 言質は取っておかないとな。


「受け入れたくはないけど。そっちがその気なら、出来る事はするって意味です」


 相手もはっきりと謝罪の受け入れは表明しないか。


「そうかい。まあ色々とあるかも知れないが、今後ともよろしくな」

「仲良く行きたいですね」



 仲良く行きたいとはな。

 本心からそう言っているように感じた。

 こういう時は普通なら怒りを露わにしたりして釘を刺したりするものだ。

 嘘でもな。


 何となく異質な物を感じる。

 物凄い嫌な予感がするぜ。

 ネズミを相手にしていると思ったらネズミの形をした毒蛇だったみたいな感じだ。

 要注意だな。


Side end


「ランドルフ、俺は少し頭に来た。もう遠慮はしないぞ」

「なんだ遠慮してたのか」


「そうなんだよ。俺に手がある」

「そうか。詳しく説明してくれ」

「産業に打撃を与えるんだ。まずはサバル国からの輸入を止める」

「どうやって、商売禁止なんて言ったらピピデの民が暴動を起こすぞ」

「そんな事はしない。まあ見ててくれ。現代の科学力を思い知らしめてやる。現代製品無双だ」


 さあ、忙しくなるぞ。

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