第60話 送風機

 商品を売ってばかりいるけど、俺は農家だ。

 今日もノルマのジャガイモの作付けが終わった。

 労働が終わった後のノンアルコールビールが美味い。

 ホームセンターではこれしか売ってなかったからだ。


 スキルを無視して懇願力で召喚すれば出来るんだが。

 召喚って誰かの物を盗んでいる気になるので、特別な事が無い限りやりたくない。


 エーヴリンの炭酸水でミカンジュースを割った奴も美味いんだが、ビールの苦みがたまに凄く懐かしくなる。


「プチウインドや」

「おお、サンキュウ。涼しいよ」


「うちもなんや、商品が売りたなってきた」

「ステイニーだと風魔法か」


 ホームセンターの木で枠を作って風魔法を掛ければ、魔力がある限り風を起こせる。

 だけど、現代製品を知っている俺としては物足りない。

 扇風機は風の強弱と首振りとお休みのタイマーぐらいは欲しい。

 懇願力でその機能を実現するのは難しそうだ。

 一種類の機能なら楽勝なんだが。

 オーソドックスに考えるのなら、入り切りを兼ねた強弱なんだが。

 作ってみるか。


 木枠を作ってステイニーに魔法を掛けてもらう。

 懇願力で強弱のスイッチを作る。


「なんや、こんな機能だったら、こないな事せんでもできる」


 ステイニーが工作するのを見守る。

 ええと吹き出し口の面積を調整する事で強弱と入り切りを実現するのか。

 スライド式の扉を吹き出し口に付ける訳ね。


 おお、ちゃんと調整出来ている。


「凄いな。俺にはなかった発想だ」


 じゃあ、懇願力は首振りか、お休みのタイマーかな。

 どっちが良いだろう。

 両方作ってみるか。


 首振りは木枠を左右に半回転させる事で実現したが、時間が経つとテーブルに乗せた木枠が移動してしまう。


「これは駄目やな。吊るしたり壁に設置できへんやろ」

「うん、その通り。これは駄目だな」


 次はお休みタイマーだ。


「正直言って微妙やな。残り時間が分からへんゆうのもちょっとな」


 LEDがなければ残り時間の表示なんて出来ない。

 懇願力で残り時間を表示させると、お休みタイマーの懇願力と干渉して上手くいかない。


 うーん、難しい。

 清浄な魔力を噴出させるってのもありだが、いまいちだな。


 回復の風なんかどうか。

 駄目だ魔法を使った方が良い。

 冷たい風は風邪を引きそうだし。

 暖かい風は暑い日には邪魔だ。


 除湿ってのはありかもな。

 さっそくやってみる。


「乾いた風を出したんやな。こないな事せんでも、エーヴリンに魔法を掛けてもらったらええやん」

「そうだな。水魔法でも除湿は可能だ」


 負の魔力を浄化して清浄な魔力に変換する機能にした。

 しかしな、これ一般の人には効果が分からない。

 俺は半精霊だから分かるけど。

 でも、世界の浄化には役に立つ。

 知らない機能で世界が平和になる。

 うん、良いかも。


 さっそく、商人に持って行く。


「これは、また微妙ですな」

「売れると思うんだけど」

「扇子や団扇がありますからな」


 むーん、食いつきが良くないな。

 これ以上どこを工夫しろって言うんだ。


「こうなりゃ自棄だ。香りと音をつけてやる」


 香りは魔法で、音は風鈴を設置すれば良い。


「ほう、それはいけそうですな」

「すぐに飽きられると思うけどね」


 そして後日。


「あの送風機。隠れた機能がありますな」

「えっと、負の魔力を浄化する機能はつけたけど」

「設置した家では体調が良いと評判です。聖職者がこぞって買い漁っています。教会は風鈴の音色と花の香りが溢れています」


 俺の懇願力がこのところ一段と上がったのはそのせいか。


「神の名前を付けて売り出したんだな」

「はい、神のそよ風と名付けました」


 今までも思ったけど、俺達が作った道具に祈るなんて、この世界の人は変わっているな。

 健康になるご利益があると、家庭では拝みたくなるのかも知れないけどさ。

 でもそれだけかな。

 なんかおかしい。


 おかしすぎる。


「なんか隠している事がないか」

「いえ別に」

「俺に言ってない事があるだろ」

「はて」


 だって女神様の教会に俺達の作った道具を置けば、女神様の懇願力が増えるはずだ。

 もしかして、俺を拝むような仕掛けをしたのか。

 どんな仕掛けだろう。

 普通に考えたら神の名前か印か姿を刻む。


「俺に黙って俺の印を道具に刻んだな」

「いけなかったですかな。シゲルの字をあなたの母国の字で刻ませてもらいました」


 確かに茂の漢字を教えたけどさ、こんな事に使われるとは。

 墓にも刻まれているのか少し嫌だな。


 余計な事をしやがって。

 もうやるなと言ってもたぶん刻むのだろうな。

 ブランド名を変更するのは容易ではないからな。

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