第54話 魔獣図鑑

 唐辛子の大精霊のエリザドラが何か言いたそうにしてた。


「何だよ。言ってみ」

「魔獣図鑑を作成希望。挿絵付きで」

「良いんじゃないか。コピー用紙とマーカーを沢山出してやろう」


 まだ何か言いたそう。

 しばらく待つ。


「絵描きに依頼」

「今から頼んでやる。よし、お絵かきが好きな精霊も呼んでやろう」


 懇願力よ、お絵かき好きな精霊を呼び出せ


「なにっ。今、仕事中」

「悪いな。魔獣の絵を書いてほしい」

「仕事は今、終わった」


 精霊は嬉々として紙に絵を描き始めた。

 俺は集中を乱さないようにそっとテントを出ると、ピピデの民の絵が上手いと評判の男に会いに行った。


「エリザドラがさ。魔獣の絵が欲しいのだけど、やってくれるか」

「はい、神様」


 ここでも神様か。


「じゃ、頼んだぞ」


 しばらくして様子を見に行くと、魔獣の絵が出来上がっていた。

 絵が上手いと言っていただけあって確かに上手い。

 背中をつんつんされた。


「出来たの」

「びっくりした。精霊か。また大精霊がおめでただと思った。ありがとう、エリザドラに渡しておくよ」


 エリザドラの所に持って絵を見せた。


「実物が見たい」

「精霊の樹から遠く離れるのは嫌か」

「うん」


 カメラ買っちゃうか。

 1万円ぐらいのなら、ホームセンターでも売っている。

 でも、俺が空を飛んで魔獣を探しに行くのは骨が折れる。

 ランドルフに頼んでみるか。


「背景を写し撮る物を買ったんだが、これで魔獣を撮ってくれないか」


 カメラの使い方を説明すると、ランドルフはテントの内部を撮影し始めた。


「ほう、これは凄いな。魔獣を撮ったらしばらく貸してくれないか」

「何に使うんだ」

「危険人物の顔を撮る」

「犯罪者は俺も許せない」

「任せておけ。奴らを丸裸にしてやる」


 なんかカメラが意外な所で役に立つな。

 パソコンは俺の所にしかないから、悪用もしないだろう。

 ピピデの民が盗撮するとは思ってないがな。


 俺は空を飛んで目に付く魔獣を撮りまくった。

 草食魔獣は野菜をあげて動物に戻してやったりもした。


 草食魔獣を動物に戻す試みも何か考えないと。

 今のままでも清浄な魔力を含んでいる草を食っていれば動物には戻る。

 しかし、それでは何年も時間が掛かる。

 時間に追われている訳じゃないが、仕事みたいなものだしな。


「沢山、撮って来たぞ」

「満足」


 エリザドラが写真を見てうっとりしている。


「魔獣辞典は写真でいくのもいいかもな」

「絵が味」

「そうか、確かに子供の頃に買ってもらった図鑑は絵だったな」


「写本が必要」


 確かに写本するなら絵じゃないとな。

 ここに来れば、スキャナーとプリンターがあるけど。

 パソコンを貸し出すのはちょっと骨だ。

 発電機もセットにしないといけないし。

 ガソリンも要る。


「たぶん、写本する人が写真を勝手に絵にすると思う」

「そう。なら良い」


 文章を組むには外字を作らないとだな。

 これは面倒だ。

 文章を紙に書いてもらったのを、スキャナーで取り込むか。


 2時間ほどで10ページの魔獣辞典が完成。

 クリアファイルに入れてやるとエリザドラは喜んでいた。


 ランドルフがカメラを持ってやってきた。

 危険人物がここらをうろついていたのか。


「出入り禁止の商人だ。複製を作って配布してほしい」

「危険人物ってそういう人も含むのか」

「当たり前だ」


 ブラックリストを作るのね。

 パソコンの管理者を育成したいが、こればかりはどうもな。

 まずは日本語ができないと、パソコンは操作できない。

 おまけにアルファベットも混じっているからな。


 そして、ソフトの説明書だ。

 最近のソフトはヘルプしか付いてない。

 ヘルプを俺が翻訳するなんて勘弁してほしい。


 そう言えば大精霊達は日本語が出来たな。

 事務仕事を大精霊の誰かに振りたい。

 今度、みんなを集めて聞いてみるか。


「ブラックリストの管理は俺はしないぞ」

「それは俺達がやる。写真の複製だけ頼む」

「まあ、それなら良いか」


 当座は複製だけだから、良しとするか。

 ブラックリストが100件を超えたら、誰かに絶対振ってやる。

 雑務は嫌いだ。

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