第50話 ヒースレイ国へ行く

 さてヒースレイ国に出張に行くのは決まったが、愛しい妻と子供と長い間離れるのは我慢できない。

 そういえばステイニーが空を飛んでいたな。

 空を飛んでいけば短時間で行き来できるはずだ。


「でうちに教わりたいと」

「そうなんだ」

「ええやろ。飛ぶのは空気を魔法で蹴るんや。それと風を掴む事やな」

「やって見る。フライ」


 魔法で空気を蹴ってと。

 おー、ロケットになった気分だ。

 おっと、風に煽られる。

 ええと空気の翼を出して風を掴もう。

 初めてにしては上手くいったんじゃないか。

 ところでこれはどうやって着地するんだ。


 慌てたらだめだ。

 推進力をなくして、空気の翼で滑空してと。

 おっ、良い感じ。

 地表近くに来たら逆噴射をしてブレーキと。


「どうだった」

「せやな。合格点はあげられる」

「よし、明日。出発だ」

「ぴい」


 アン、ドゥ、トロワ、カトル、サンクの内の誰かだな。


「何か言いたいのか。飛び方を教えてくれるのか」


 首を振る鳥さん。


「一緒に行ってくれるみたい」

「鳥の言葉が分かるのか」

「ちゃう、風の意思が伝わるんや」


 なるほど風の大精霊ならではだな。


「よし、一緒にヒースレイ国に行こう」


 翌日。


「お帰りを待っているの」

「すぐに戻るつもりだ。行ってくる。フライ」


 みんなに見送られ聖域を後にした。

 大荒野は緑が点々とまだら模様になっていた。

 これが緑のじゅうたんになるのも遠くないだろう。

 眼下にピピデの民のキャラバンが見える。

 手を振るとあちらも手を振ってくれた。


 鳥さん達も甲高い鳴き声を上げて応えた。

 そうだ、鳥さん達が嫌でなければ足環をつけよう。

 色はアンが赤。

 ドゥが青。

 トロワが緑。

 カトルがピンク。

 サンクが黄色。

 これでいきたいと思う。

 戦隊物にならってみた。


 眼下はまだら模様の荒野ではなく、区画整理された畑が見えてきた。

 ヒースレイ国に入ったようだ。

 幼稚園児ほどの風の精霊が寄ってきた。

 ここから先導してくれるらしい。


 大人しく後をついていく。

 大きな河を何度か横切り、森をいくつも飛び越え、ひと際大きな街が見えて来た。

 ここがヒースレイ国の首都らしい。


 城壁の手前に俺達は降りた。


「道案内ありがと」

「楽しかったの。また呼んで」


 そう言って精霊は消えていった。


「ひっ、ジェノサイドバードが五羽も」

「大丈夫だよ。人になれている」


 俺は背負い鞄からミカンをとりだすと投げて鳥さん達に投げてやった。


「ぴい」


 ミカンを一飲みにする姿を見ていた通行人はごくりと喉をならした。

 自分の頭が丸のみにされたような顔をしている。


 俺は鳥さん達を撫でまわした。

 通行人は安心したらしい。


 門の順番を待つ間も鳥さんには人が近寄らない。

 人が密集しないのはありがたいが、恐れられるのもな。


「次の方」

「ああ、俺だ」


 持たされた書類を門番に提出した。


「そのジェノサイドバードは人を襲わないと誓えるか」

「ああ、精霊王に誓おう」

「隊長これを通していいんですか」

「お前、国賓だぞ。言葉を慎め」

「失礼しました。お通り下さい」

「ご苦労様」


 さて、宿をとらないと。

 大通りを鳥さん達と歩く。

 鳥さん達を泊めてくれる宿があるだろうか。


「足環をつけたいがいいか」


 良いらしい。

 頷いてくれた。


 鳥さんに小型犬用の首輪を足に嵌める。

 それを見ていた一人の女の子が声を掛ける。


「鳥さんと仲良くなりたい」

「うーん、どうしよう。宿をとらないと」

「うちに泊まったらいいと思う」


「俺はシゲル。君は?」

「エリザ。触って良い?」


「ああ、撫でてやってくれ。鳥は好きかい」

「うん、好き。大空を飛ぶ姿が好きなの。鳥さんみたいにお空を飛びたいといつも思っているの」

「これも何かの縁だ。ご厄介になろう」


 案内されたのは物凄い大きなお屋敷だった。

 馬小屋に鳥さんを入れる。


「お世話になります」

「いやー、ラクーとかは馬小屋にいれた事はあるけど鳥をいれるなんてね」


 馬丁がそう言った。

 俺は使用人が暮らす宿舎に案内された。

 ここは豪商のお屋敷で、エリザは末っ子で、よく怪我した鳥を連れてくるらしい。

 人間を連れてくるのは初めてだと馬丁が言った。


 おれは鳥さんのオマケだと思う。

 だが、泊まれれば文句はない。

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