第44話 裁判をする

「元魔獣にピピデの民が名前をつけたいと陳情があった」


 ランドルフの申し訳なさそうな顔。


「つけたら良いんじゃないの」

「お前を差し置いてそんな事はできない。命名は家長の役目だ」


「そんな事を気にしていたのか。そうだ、世話になっている元魔獣に名前をつけてやるか。ほかの元魔獣は好きにすると良い」


 まずは大亀だな。

 いつも湖に運んでくれる大亀を前にして。


「お前の名前はギガラだ。やっぱり亀は最後はラで終わらないと、大きさの単位であるギガと組み合わせた名前だぞ」


 頷くギガラ。

 そうか気に入ったか。

 次は鳥さんだ。

 5羽いるから、アン、ドゥ、トロワ、カトル、サンクでどうだ。

 俺には区別はつかないが鳥さんの中では自分がどれになったか決まったらしい。


「アン」


 呼ぶと鳥が一羽、前に進み出てきて首をかしげた。

 本当に区別がついているのだな。


 名前が決まったが、名前の事で困った問題が最近ある。

 子供が25人もいると誰が誰だか分からない。

 みんな耳がとがっているのが特徴で、髪の毛は揃いも揃って金髪だ。

 遺伝子仕事しろよと言いたいが妖精はみな金髪だそうだ。

 目の色も金だ。

 というか25人の名前をすべて言えるか自信がない。

 だが、みんな可愛いのだから些細な問題だ。


 顔を見に育児テントを訪ねる。

 魔法で水蒸気の魚を泳がせ、ガラガラを振ってやるとキャッキャと笑い声上げ喜んだ。


 そうだ、スキルで名札を買えば良いんだ。

 でも、ピンが危ない。

 却下だ。却下。


 困ったぞ。

 育ってくれば特徴が際立つのかも知れない。

 少し待ってみるか。

 幼稚園児ほどに育てば名札を着けれるだろう。


  ◆◆◆


「あなたに裁いてほしい」


 畑仕事をしていたらそんな事を言われた。

 俺に裁判官をやれってのか。

 無理、無理だよ。


 育児で忙しい、ヴェネッサを呼び出した。


「忙しいのに悪いな」

「ちょうど手が空いていたから。乳母が何人もいるし、問題ないわ」


「この男が家畜を盗んだのです」

「俺は一頭でふらふらしていたラクーを保護しただけだ。持ち主が分かったら返すつもりだった」

「子供を産ませたじゃないか」

「そりゃメスだったからな。自然の摂理だよ」

「じゃあ子供と一緒に返すか」


 背景は分かった。

 迷子になったラクーを保護している間に子供が産まれたと。

 その子供の所有権を争っているのだな。


「血を差し出せ」


 針で指を突き血を魔法で判別する。


「ブラッドジャッジメント。嘘はないようだ。判決を申し渡す。母子は一緒にいるべきだ。2頭とも返すように」

「横暴だ」


 確かにメスがいなかったら子供は生まれない。

 しかし、面倒を見てきたのだから納得いくはずもないか。

 じゃあ、こうしたらどうだろうか。


「メスを返すのは子供がまた生まれてからにしたらどうか。そうすれば1頭ずつ分ける事ができる」

「そうか、そりゃいい」

「それなら納得できる」


「判決、子供がまた生まれたら分ける」

「ヴェネッサ、悪かったな。判決に水を差して」

「いいのよ。あなたの意外な一面を見られて良かったわ。惚れ直しそう」


「見てたぞ。お前、頭がいいな。教師が欲しいのでどうだ」


 観客の中にランドルフがいて、話し掛けられた。


「ピピデの民の中に適任者がいるだろう」

「それがな。特別な者を教育したいのだ。幹部になるような者をな」

「ますます、俺には荷が重い」


 そうだ、キャロリアの前世が教師だったな。

 彼女に頼んでみるか。


「教師ですか。良いですよ」

「そうか。頼むよ」


 俺は頼んだ手前もあって授業を覗いた。


「6掛ける8は? 分かる人」


 キャロリアに問い掛けに誰も答えない。

 掛け算が難しいとは、俺でも教師が務まりそうだとは思わない。

 理解していない者に理解させるのは難しいからだ。

 教える者が理解しているからといって、安易に理解させられるとは限らない。


「ろくはしじゅうはち」


 俺は呟いた。


「なんですか。今のは」

「九九だよ。掛け算はこうやって語呂合わせで覚える」

「なるほど、丸暗記してまう訳ですか」


 俺は九九をキャロリアに教えた。

 九九を詠唱する生徒達。


「助かりました。賢いのですね。惚れ直しました」

「今日はよく惚れ直される日だな」


 その夜。

 ヴェネッサとキャロリアが来て受粉受粉じゅふんじゅふん

 致してしまいました。


 つい、魔力を出してしまいそうになったがこらえた。

 俺の魔力制御も上達したものだ。

 上達の力で魔法を何かに役立てたい。

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