「どうした、何か反論は無いのか?」

「反論などしたところで貴女の良い玩具になるだけでしょう。貴女は真面目にこたえる気は無いんですから。それに貴女の中に全てにおいての真実が無いのであればここで反論することもそれは真実ではないことになる。どちらにしても私がこれ以上貴女に何かを言う必要性はないですし、そうすることに実りがあるようには感じられません」

 毅然とした態度でありながらも、少々悪ふざけにつき合わせるのも良い加減にしてほしいという苛立ちも含まれたほのかの態度に、千珠咲ちずさは大きく笑ってすまないと謝罪の言葉を口にした。

「なるほどな、ウォールが認めるだけのことはある。面接の一部だと思ってくれ」

「面接、ですか?」

「ここではお前のような頭の回転が速く事実をすんなりと受け入れながらもそれに流されない精神が必要だからな」

「一体私は何をさせられるんですか?」

「簡単に言えば本の整理だ。ここに来る途中見ただろう? 本の山を。あの本を整理する仕事を私の部下達がやっている。お前もその一員になるというわけだ」

 千珠咲ちずさはにこやかに微笑み机から腰を下ろしてほのかの隣に腰掛け、自分を視線からはずさないほのかを横目で見つめる。

「第7島の教育は全てフェルネスに任せてあるから私は把握してない。だが、様々な技術を持ち、まるで一国のように機能しているこの島が単なる図書館であることは知っているな?」

 ほのかはこくりと頷いた。

 大震災の後残った島々はそれぞれに指導者を立て、国として名乗りを上げ今に至っている。

 当然の事ながらそれぞれが自らの国を建てて名乗りを上げた時点で火種はくすぶり、種と生命の危機が去れば手を取り合っていた人々は新たな技術や資源を求め争いを再開させた。

 このトラスパレンツァ図書館のある島も略奪の対象となったが、この島はどんなに国としての地盤があろうとも決して国の名乗りを上げず、あくまで図書館として存在し続ける。

 求められれば技術の提供も惜しまなかった。

 しかし、技術や人、資源の提供をトラスパレンツァ図書館から受けるにははるか昔に約束された条約を守る必要がある。決して破棄されることの無いその条約は、

「譲渡されるものと相応の価値を持った、文字を利用し記された文章書物文献を差し出すこと。その価値の算段においてはトラスパレンツァ図書館総監の一存にて決まる」

 というもの唯一つだけだった。

 しかし、その地表のほとんどが突如として海に没した世界で過去の書物文献を手に入れるのは困難であり、現代の書物の価値は酷く低い。相応の技術の提供を受けるには相応の書物が必要という条件は他国にとっては苦しいものだった。

 当然、力ずくで奪おうとするものもあったが、トラスパレンツァ図書館には優れた自衛組織、戦闘部隊が居たため一度としてそれらが成功することは無く、他国は常にトラスパレンツァ図書館の全てを欲しながらも手を出すことは極力せず、他者との争いに明け暮れていた。

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