1章 3話 魔法少女はサファイアの煌めきと共に
「まさか……!」
悠乃は玲央の下から抜け出し、保健室の窓に駆け寄った。
見慣れていた高校のグラウンド。
そこにはクレーターが生まれており、その中心には怪物がいた。
「《
悠乃は息を呑む。
大きな体に、背中から生えた無数の触手。
形は個体によるが、あのグロテスクな姿は《怪画》に間違いない。
「悠乃嬢。朕が今回、最初にスカウトしているのは君だ。つまり、この世界にはまだ
イワモンは語る。
現在、ここにいる《怪画》を倒せる者はいないのだと。
言い換えれば、悠乃が魔法少女となるだけで《怪画》を倒せるという事を。
以前、悠乃は魔法少女となった。
しかし、その時点ですでにマジカル☆ガーネットは活動を開始していた。
被害の多寡に頓着しないのなら、《怪画》はいつか討伐されていたのだ。
だが、今回は彼女もいない。
正真正銘、戦えるのは悠乃だけなのだ。
「一応、体面のためにも『承諾を得た』という形にしたかったのだがな。予定変更だ」
イワモンが両手を広げる。
すると、そこに青色のクリスタルが創出された。
「どうせ強制命令だったのだ。踏ん切りをつけるためのキッカケができたと思って我慢してほしい」
そう言うとイワモンは跳び――悠乃の顔にしがみついた。
「ふぎゃッ」
そのままイワモンは悠乃をベッドへと押し倒す。
一方、悠乃は突然の奇襲に軽くパニックを起こしており、イワモンに容易く組み敷かれていた。
仰向けに倒れる悠乃。イワモンは彼の胸の上に降り立つ。
「覚えているだろう悠乃嬢? このクリスタルで儀式を行えば、晴れて魔法少女だ」
イワモンがクリスタルの先端を悠乃の口へと向ける。
これから行われることを察し、彼は顔面を蒼白にした。
「では、二度目の契りを交わそうではないか」
「や、やめ……ぅぐッ……!」
悠乃は抵抗の言葉を最後まで言い切ることはできなかった。
開いた彼の口へとクリスタルが挿入されたためだ。
「そうだ悠乃嬢。飴玉のようにその結晶を舐めるのだ。そうしてクリスタルが体と同化した時、悠乃嬢は魔法少女となる」
「んぐぅー! んー!」
顎が外れそうなほどの大きさの結晶が悠乃の口内を満たす。
そして口内の温度で溶けだしたクリスタルが彼の喉へと流れ込む。
「ほら悠乃嬢。早くしなければ《怪画》が暴れてしまうではないか」
「ん……! ぅぐ……!」
悠乃は体が熱くなるのを感じる。
懐かしくも、苦い感覚。
――魔力だ。
結晶を取り込んだことで、悠乃は魔法少女としての力を取り戻したのだ。
取り戻して、しまったのだ。
「ふむ。済まないな悠乃嬢。上の決定で、君が魔法少女にされることは決められていたのだよ。君がどう答えようとも、だ」
「……ばか」
悠乃は気だるさを感じながら身を起こす。
彼は――否、彼女は陰鬱な気持ちのまま鏡へと目を向ける。
「最低の気分」
そこには魔法少女だった頃の自分――そこから5年の月日を重ねたであろう女性の姿が映っていた。
小学生にすぎなかった少女の、大人として成長し始めた姿を見て嘆息する。
これが自分でなければ良かったのに、と。
「悠乃嬢。変身したばかりで疲れているのは分かるが、まだ頑張ってもらうぞ」
「嫌だって言ったのに」
悠乃は口元をとがらせてイワモンに文句を言った。
「――悠乃嬢――いや、新生マジカル☆サファイア。出陣だ」
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