最終話 相変わらずな二人

 というわけで、結婚するということになった俺たち。それからは親戚に連絡したり、クラスの友達に連絡したり、学校に知らせたりと、少し慌ただしい事になった。


 「連絡はきっちりしておかないと、ややこしいことになるからな」とは親父の弁だ。その中で、何人かびっくりした人や、とりわけ担任の先生のように、心配して来た人もいたけど、変な事を言われなかったのは幸いだった。


 連絡をした後は、書類の準備をして、役所へ婚姻届けを出しに行ったのだけど、思いの外あっさり受理されてしまって、逆に俺たちは拍子抜けしてしまった。いや、受理されなくても困るんだけど。


 そして、婚姻届が受理されて翌朝の教室。


「おめでとう、古織こおり!」

「おめでとう、倉敷くらしきさん……あ、古織さん」

「別に旧姓でいいよ。急に変えられても困っちゃうし」


 ね、と古織に視線で同意を求められる。


「だな。正直、そこで急に変わっても困る。つーわけで、よろしく」

「高校生で嫁さんがいるとか勝ち組もいいとこだよな。はー」

「俺も最初はそんなつもりなかったんだけどな」


 彼女の些細なお願いを叶えてあげたくなったのと、そういうのもちょっと面白いかもしれないと思って乗っただけのこと。


「さんざん夫婦扱いしておいてなんだが、本当に夫婦になるとはな。もげろ」

「お前は彼女居るだろ」

「彼女と嫁だと違うんだよ!」

「そんなこと力説されてもな……」


 正直、俺だって、まだ、古織と夫婦になったという実感は薄いのだ。いずれ、結婚式でもやれば実感でも湧いてくるのかもしれないけど。


 しかし、結婚しても意外に周りは変わらないのは驚いた。もっと大騒ぎになると思っていたのだけど、「あー、あの二人ならな」ということで納得した奴が大半だったけど、俺たちはどんな目で見られていたんだ。


「結婚しても、あんまり代り映えしないよな。これで良かったのか?」


 こんなあっさりで良かったのだろうかと少し疑問に思う。


「あたしは、大満足だよ。後々、話の種に出来そうだしね」

「ああ、それは言えてる」


 大学生になってからか、あるいはもっと後に子どもが生まれてからか、それはわからないけど、これほどネタにできる美味しい出来事はそうはないかもしれない。


 「大きくなったらお嫁さんになる」なんて他愛ない話から始まって、こんな事になった俺たち。しかし-


「でも、新婚の前に受験勉強があるんだよなあ」

「そこは2人でがんばろ?」

「ま、そうだな。頼りにしてるぞ、俺の嫁さん」

「どーんと任せて、私の旦那様。あ、でも、勉強の最中は真剣にね」

「お前が何考えたか手にとるようにわかるが、さすがにそれはねえよ」

「ええー?手を出してくれないのー?」

「お前は……。いいのか、悪いのか、どっちなんだよ」


 いつものように、どうでもいい言い合いを始める俺たち。相変わらず、不思議な縁で結ばれたこの相方との人生は続いていくのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「大きくなったらお嫁さんになる!」にマジレスした結果 久野真一 @kuno1234

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ