狼煙
「こりゃまた、派手にやられたねぇ」
目の前の男が半笑いでそう言う。
「うるせえよ」
左肩を押さえながら立ち上がった。コンクリートの破片がぱらぱらと落ちる。
「やっぱり作戦を無視して強行するのは良くないと思うんだけど」
「黙ってろ、これは俺の戦いだ」
「そう、君の戦いだ。けれど、君が死んだら元も子も無いだろう?」
やれやれ、と彼は肩をすくめた。どうやら奴らは逃げていったらしい。肩を貸そうとする友を払い除けて歩き出す。
「……今から聞く質問に、正直に答えろよ」
「なんだい」
「……お前、分かってたな」
彼は半笑いのまま表情を変えない。
「俺が突撃するのを知ってて、それでいてあの作戦を実行した。違うか?」
溜め息をついた後、彼はまた微笑んだ。
「どうしてそんなに勘が働くのに作戦通りには動けないんだい?
……ああ、勘が効いたから本能的に動いたのかな?いやはや、そうだとしたら恐ろしくて溜まったもんじゃない」
「ったく、ふざけた軍師だ」
「まあ、無茶な突撃をさせるなんて心が痛みますし?」
ここまで派手に大負けするとは思わなかったけどねー、とかなんとか言われてかちんとはきたが、まあ事実なので言い逃れはできないしする気もない。
「……まあ、今回に関しては本来の作戦が最善の一手だったから提案しなかっただけだよ」
「じゃあ俺が突撃するってのはどれぐらい良い手だったんだ?」
「……僅差で、次善の策だった」
友がにやりと笑った。
「君だって、本気を出していなかったろう?」
「あったりめーだ。俺の本気が知れたら、奴らの懐に潜り込むのも難しくなる」
「なーんだ、全部分かってるんじゃないか」
じゃあなんでそっちを提案しなかった、と相棒を小突く。ひょろくて小さくて聡明な軍師は、押されよろけてつまずいた。服に付いた瓦礫の破片を払い落としながら、その様子を見てにやにやしたら、彼はちょっとむすっとした顔をした。君にそんなことを提案したら本気で暴れるに決まっているだろう?と言われたのだが、正直ちょっと納得してしまったのがムカつく。
「なら、次に何をやろうとしてるか分かる?」
「いよいよ本陣突撃って訳か」
本当に、死んで台無しにならなくて良かったよ、と言われてイラッとしたので、再び小突こうとしたら逃げられた。ちょっとムカつく顔をしていたので、帰ったら殴ろう、とは思った。
「それにしたってフラストレーション溜まりっぱなしだからな。こんな負け方はわざとにしたってムカついて仕方がねー」
「まあそう言うなって。兵力が君一人だけじゃあ、警戒されて人海戦術なんか使われちゃ詰んじゃうだろうし。だから明日、その怒りを使って存分に暴れて来ればいい。十年越しのリベンジマッチだぜ?」
「任せな。やられるのはあんま気に食わんが、雪辱戦ってのも、アレはアレで、なかなかどうして嫌いでもねえからな。油断した相手をさっくり行くのも爽快で良い」
「……まあ、僕達はいつでもいつも通り、今まで通りさ。分かるだろう?」
黒い軍服に身を包んだ天才がこちらを見やって、拳を向けてきた。
「
「───
俺に比べりゃ小さな拳に、俺の拳を軽くぶつける。
少年みたいな相棒が、少年のような笑顔を見せた。
「さあ、反撃開始だ」
燃えるような夕日が、目の前でただ強く輝いていた。
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