167 期待と絶望
暗闇に響く雷鳴に立ち
雨が来る──その匂いは冷えた空気に、絶望を予感させた。
ただでさえ視界の悪い闇の中で、みさぎは恐怖を
雷の前に東の空で鳴った音は、花火や銃声を思わせるものだった。そこに続いたハロンの長い
広場に居る
「やめて……」
ボタリと頭に落ちた大粒の雨を皮切りにボタボタッと間隔が縮まって、あっという間に大降りになった。
ターメイヤでハロンと戦った時と同じだ。
きっかけはヤツの片羽を落とした時。もがき苦しむ
カッと頭上を走る
中條に雨を克服しろと言われたのは、つい一ヶ月ほど前の事だ。湊は雨の日にデートしようと言ってくれて恐怖心は減った気がしたものの、それは彼が側に居てくれたからで根本的な所は変わっていない。
回復しきっていない身体に疲労感が増していく。
「またあの結末を繰り返すつもり?」
前世での戦いは、後半リーナが一人でハロンに
「信じてなかったってことだよね」
そんなリーナのエゴが、ルーシャに次元隔離の手段を取らせる結果になってしまう。
「けど、今回はみんながいるでしょう? 二度目の次元隔離になんてことには絶対にさせない」
次元隔離をするという事は、また一からこの十七年をやり直すという事だ。
ターメイヤであの
「嫌だ。もう死にたくないよ。湊くんの所へ行かなきゃ」
ずぶ濡れの身体は、感覚を麻痺させるほどに冷たかった。
みさぎは雨を押しのけるように立ち上がり、勝機を求めてポケットの中を探る。
中條から預かった記憶の石だ。
『貴女がハロン戦で、もう駄目だと思った時に開いてください』
そんな状況だと認めたくはないが、
だから、見る分には問題ないと思う。
みさぎは小さな期待を込めて、胸の前に握り締めた石に力を込める。記憶の石の解放は、体温に込める願いだ。
中に閉じ込められた情報は、【ウィザードとして知る権利のある情報】だと中條が言っていた。
けれど開示された内容に、みさぎは絶望する。
同時に思い出されたのは、青い魔導書の破られたページの中身だ。
そこに記してあった魔法がこれだ。魔法陣も文言も、はっきりと頭に
「これが、最終手段だって言うの?」
込み上げた衝動に流れた涙は、雨と混ざってぐしょぐしょになる。
「みさぎ!」
その声と同時に、みさぎは湊に抱きしめられた。雨音のせいで、正面から来た彼に気付くことができなかった。
「湊くん……?」
こんな最悪の雨の中に居るのに、彼がいるだけで少し心が軽くなる。
「どうして?」
「前に言っただろ? 雨が降ったら俺がみさぎの所に行くって」
「そう……か。ありがとう、もう駄目だと思った……」
「治癒魔法を使ったって聞いたけど、もう動いて平気なの?」
「完全ではないけど、ちゃんと配分考えるよ。湊くんを頼らせて」
常に前へ出たいと言っていた
「私が
そう強がって、みさぎはすぐにそれを「ううん」と否定した。
「湊くんならって思えるから」
「そっか。ありがとな」
湊は「任せて」と表情を緩める。
彼が居たら、今度こそハロンに勝てる気がした。
ホッとした気持ちにまた視界が
すると、「チュウ」と彼の頭上で何かが鳴き声を上げた。
「……え?」
見上げるとそこに、闇に紛れていた姿がくっきりと現れる。
「それ……何?」
「あぁ、コイツは敵じゃないよ」
「そうなの?」
バタバタっと跳ねたそのモンスターに、湊が「コラ、チュウ助」と声を上げる。何故か名前が付けられていた。
どう見てもこの世界の生き物ではないが、考える暇もなく後ろからもう一人の声が雨音に重なる。
「みさぎ!」
「咲ちゃん!」
どうして彼女がここにいるのか。学校で寝ている筈の咲が、旗を
そして咲の背後に黒い輪郭が現れて、みさぎ達は絶句した。彼女はその気配に気付いていない。
「駄目だよ、咲ちゃん。後ろ!」
咲に向かって駆け出した湊が、剣を発動させる。
咲の背後に赤い影が迫っていた。
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