153 ゲージ回復
北の空に打ち上げられた
正面から飛び掛かってきた
炎の垂直発射は、そこに怪我人が居る合図だ。打ち上げたのは
そんな不安に付け込んで、モンスターは攻撃の勢いを強める。
狼のような体に羽をつけた敵が、十匹ほどみさぎを囲んだ。一匹の鳴き声を合図に一斉に飛び掛かって来て、みさぎはロッドとは逆の手を地面に向け光を放つ。
地面から突き上がった円柱の光がみさぎの周りを覆う盾となり、体当たりを防いだ。
光の盾は
「もぉ」
休みなく
「ちょっとルーシャ、このモンスターたちは何なの? ハロン以外が出るなんて聞いてないよ」
『いいから、そういうのは適当にやっつけて。それよりヒルスが怪我したから、そっちへ向かってくれる?』
急を要する話に、みさぎは「えっ」と声を詰まらせる。
「咲ちゃん……が?」
あの火球は、やはりそういう事だったらしい。
『ハロンが北へ向かったでしょう? あそこに置いた
「ちょっと待って。治癒魔法を使うって事? そんなに悪いの?」
治癒魔法は魔法使いの体力を奪う。だからこそ、前世でルーシャは最前線で戦うリーナにその方法を教えてはくれなかった。
智の怪我を治した時、みさぎは意識を保っていられずその場に倒れた。ハロン戦真っ只中の今、そのリスクを負ってまでやらなければならない程、咲の状態は良くないのだろうか。
『それは行ってみないと分からないわ。今更だけど、貴女に治癒を教えておいて良かったと思う。大丈夫、ヒルスには防御魔法を掛けてあるから、即死はしてない。助けられるわよ』
「即死って……そんな言葉使わないで。けど、この場所は?
『そっちにはアッシュを向かわせたわ。今はハロンも行き場を失って
「分かったよ、すぐに行く」
みさぎの手は震えていた。気持ちが
全力で走った足が傾斜に
痛いと思って、けれどすぐに立ち上がった。ハードルを跳んでいた時に何度も転んで、転ぶのには慣れていた。
それにしても、北へ向かったハロンは智と戦っているものだと思っていた。まさかこの短時間で咲の所へ行って、そんなことになっているなんて想定外──いや、想定なんて幾らでもできた筈なのに、最悪を頭の中で受け入れようとしなかっただけだ。
学校の手前まで来て息が切れた。みさぎは一旦立ち止まり補給する。
一口だけ水を飲んでポケットから
これを食べた方がいいと頭が判断したが、プンとたつ臭いにその意思が半減してしまう。
そんな
嫌顔で一粒取り出すと、黒い玉はつるりとみさぎの指を離れて地面へ転がった。
足元のすぐ側に畑へ下りる坂があって、ころころと先へ行ってしまう。
「ちょっと待って」
まずいと思って追い掛けたところで、みさぎの頭上に影が差した。
突然の気配に後悔が募る。
どこからか飛んできたハロンが突然目の前に舞い降りて、その衝撃に跳び上がった丸薬を大ぶりな爪で器用にキャッチしたのだ。
ハロンの巨体からしたら、人間が
「何で……」
それを狙って降りてきたとは思いたくないけれど、ハロンは丸薬を持ち上げ自分の口へ放り投げた。
これが
それは、体力を回復させる薬だ。
ハロンの巨体に効くかどうかは分からないが、ある程度の効果はあるのかもしれない。
牙だらけの口の中でカリカリと音が鳴る。
みさぎが頭の中に描いていたハロンの体力ゲージが、マックスに戻った。
ハロンの行動に動揺して、みさぎは攻撃を仕掛けるのが一瞬遅れる。
「駄目!」
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