105 失恋
走っていく途中で
教室の照明ではなく、ぽつりと丸く光った青白いものだ。
けれどそれもすぐに消えて、二人が学校の敷地に入り込んでからも再度点くことはなかった。
夜の闇が暗い校舎の
照明と言えば、校庭の隅にある外灯と昇降口の上に光る蛍光灯ぐらいだ。咲は暗がりに覚えた恐怖に気付かれないよう、そっと
「さっきの光って、まさか
「ヒルスお前、そんなの信じてんの?」
「いや、そ、そういう訳じゃなくて」
ありえるかもしれないという話だ。
智に弱みを見せたくはないし、女みたいだと
「そんな幽霊とかじゃねぇよ」
智はスマホを光らせて、ポチポチと何か打ち始める。
「メラーレにメールか?」
「あぁ、一応な」
彼女は地下で仕事をしているらしいが、今日は学校の七不思議の五番目だと思われるコツンコツンという音は聞こえてこなかった。
咲が文面を
「お前、何か感じるのか?」
「まぁな。けど、弱すぎて分かんないな」
智はスマホをしまうと暗い窓から校舎の中を伺って「どうだろう」と首を傾げる。
「魔法使いの感覚って、透視みたいなのとは違うんだからな? 何か……いそうな気はするんだけど」
「まさか強盗とか?」
「学校に?
「明日の小テストの解答とかは?」
「あぁ……それならあるかもな」
智は苦笑して二宮金次郎の所まで行くと、手慣れた様子で石像の鼻に指を入れた。
「とりあえず
「えぇ? 僕を置いていくのか?」
咲は慌てて智の腕を
「女子がこんな所に一人で居たら、その強盗に狙われるだろ?」
「お前が?」
冷めた目で見る智に、咲は恥も承知で
「そ、そうだよ」
怖いなんて言いたくはないけれど、ここに置いて行かれるのだけは勘弁してほしい。
普段なら夜の闇もお化け屋敷も平気なのに、ついこの間
花壇の横に置かれた鉢植えが地面から突き出したゾンビの手に見えた瞬間、恐怖のスイッチが入った。
「一人が怖いって言ってるわけじゃないぞ」
平気なフリをしながら背中を震わせる咲に苦笑いして、智は「あれ」と眉を
「どうした?」
「……開いてる」
この間
校長室の穴は地下部屋に入ったら閉めるはずだと説明して、智は昇降口に駆け寄り扉を開いた。
「僕も行くからな」
暗い廊下に息を呑んで、咲は智を追い掛けた。校長室に飛び込むと、案の定床の穴が開いている。
地下へと急ぐ智についていくと、闇に目が慣れてきたところで彼が足を止め、「俺だ」と扉を叩いた。
奥から「はぁい」というのんびりした彼女の声が聞こえてくる。
すぐに扉が開いて、中から現れた
「智くん、来てくれたの?」
彼女はこの非常事態も全く関係ない様子で、智の胸に飛びついた。
「あ──」
彼女には咲が目に入っていなかったらしい。
声に気付いた一華が、智の横から咲を見つけて驚愕する。
「えっ? えっ、お兄さん?」
「ごめん、メラーレ」
「きゃあああ。私、知らなくてつい……」
一華は慌てて智から離れ、ぎゅうと肩をすくめた。
「別にいいけど」と智は嬉しそうに彼女へ笑顔を向ける。
「それより一華、上開いてたよ?」
アパートで聞こえた声もそうだったけれど、智は他のターメイヤ組を前の名前で言うのに、メラーレだけは「一華」と今の名前で呼んでいる。
「本当? 私ロックするの忘れてたかも。たまにやっちゃうのよ」
どうやら彼女の不注意だったらしい。そうかと安堵する三人は、上から来たもう一人の気配に気付くことができなかった。
「うわぁぁあん」
背後で突然響いた泣き声に、咲がビクリと肩を震わせて「うわぁぁぁ!」と涙声の悲鳴を上げた。
智が咲の前に出て、侵入者の前に立ち塞ぐ。
暗闇に潜む相手は男だ。
「お前……」
闇に突然現れた泣き顔は、クラスの鈴木だった。
「おっ、俺の……俺の一華先生がぁぁあ!」
彼が何故ここに居るのかは分からないけれど、これが不味い状態だという事は分かる。
智から視線が飛んできて、咲は涙を拭いながら「頼む」と
「ごめんな、鈴木」
智の手が彼の胸に伸びて、触れた指先に炎が走った。
「えっ」と素に戻って驚愕する鈴木は、そのまま気を失って智の胸に崩れたのだ。
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