41 バレないわけがないけれど
初めて彼と言葉を交わしたのは入学式の翌日で、みさぎから声を掛けた。
行きと帰りの電車が一緒で、クラスメイト――そんな小さな共通点がきっかけになって、今もこうして一緒に居る。
彼女でもない自分がこうしていつも横を陣取っているのはどうかとも思うけれど、そうさせてくれる彼に甘えてしまう。
眼鏡の奥の瞳がいつも怒っているようで近寄り難いと感じることもあるけれど、声を掛けると何事もなかったように笑顔をくれた。
そんな、頭が良くてスポーツもできる彼の正体は、異世界から地球を守るためにやってきた剣士だという。
――「今日はこのまま俺とサボってみる?」
みさぎが「うん」と
「湊くんと一緒なら、サボりたいな」
行かなかったらきっと後悔するだろうと思った。
湊は少し恥ずかしそうに「じゃあ、決まり」と笑顔を零す。
「
「二人で休むって?」
「いや、風邪だとか適当に。電車下りたら学校にも連絡しないとね」
「そっか」
確かに手回しは必要だ。何も言わずにサボったら、学校から家に連絡されてしまう。
みさぎは早速、咲に『今日、お休みします』とメールを打った。
理由を書けずにいると案の定すぐに返事が来て、『大丈夫か?』と心配された。
詳しい説明はせずに「大丈夫だよ」と答えると、『お大事に』というスタンプが飛んでくる。
「まぁどうせ、俺とだってバレると思うけど」
「いいよ。だって、ハードル飛びたくないし」
もうみさぎの中ではハードルなんてどうでもよくなっているが、そういう事にしておく。
「分かった。けどどうする? どっか行きたいとこある? 制服だし、あんまり人のいる所は止めた方がいい気がするけど」
高校のある白樺台駅までは、あと一駅。お互いの家とは逆の方向だ。
みさぎは少し考えて、「じゃあ」と横目に湊を見上げる。
「湊くんたちが修行してたあそこに、また行きたい」
「あそこって、何にもないけどいいの?」
「うん。あそこなら誰にも見つからなそうでしょ?」
人目につかない場所が良いと思ったら、真っ先にあの広場が浮かんだ。言った後にまた
「わかった。じゃあ、
みさぎは緊張を
☆
白樺台駅でドアが開いて、みさぎは息をのむ。
「気付かれませんように――」
湊と二人で椅子の上にかがんで、扉が閉まるのを待った。
改札の向こうに咲と智の姿がチラと見えた気がしたけれど、まだバレてはいないだろう。
短いはずの時間が長い。息を潜ませる理由なんてないけれど、やたら近い湊との距離に、心拍数がゲージを振り切っていた。
車内がやたら暑く感じる。
ようやく扉が閉まり、走り出した電車に二人でホッと
「やったぁ」
小さく笑い合って、少しだけ悪いことをする。
眠気はもうなくなっていた。
☆
一方、改札の向こうに居た咲は、相変わらずの超絶ミニスカート姿で、先に着いていた智にスマホの画面を見せた。
「みさぎ休みだって。大丈夫っては言うけど、風邪かな?」
下り列車から降りる生徒たちの中に、みさぎの姿はなかった。
「そうなんだ。大したことないといいけど」
智は走り出した電車を見送って、「あれ」と辺りを見回す。
「湊は? アイツも休み?」
「はぁ?」
ぐいと眉を寄せて、咲が怒りをあらわにする。
みさぎが休みだというなら、湊が一人で降りてくるはずだ。なのにどこにも姿が見当たらない。
「連絡は?」
「俺のとこには来てないよ」
肩をすくめた智が呆れたように溜息をついたところで、二人は顔を見合わせる。
「まさか――!」
兵学校の挨拶よろしく、咲は智と息ぴったりに叫んだ。
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