第132話 どきどき女神ランド

女神が『蕃神』と呼んだ怪生物は女神の事を母親と呼び返している。


「創造主の一人である事は認めますが、その呼び方は好きではないと言ったではないですか」

「そない言われても、ワイの中でオカンはオカンやしなぁ」


台座の上で胡坐をかく怪生物に呆れたように溜息を吐く。


「ハァ…まぁいいです、じゃあ回廊を開いてください」

「あいあいさー」


女神の言葉に怪生物が応えると大広間中に振動が伝わり始める。


「あ、おっさんらそこらへん危ないから、もうちょいこっち寄ってな?」

「…あ、あぁ」


怪生物の指示に従い、暗黒騎士達が台座の傍によると台座の周囲の床が徐々に螺旋状に陥没し始めていく。


「こっちが本当の通路やねん。 知らんで奥に行っても残念賞の景品(自動生成の粗品)置いてあるだけや」

「そうなんか…えふっえふっ! そうなのか…」


ついついつられてしまう怪生物の謎の訛りにつられつつ、暗黒騎士は台座の周囲に出来た螺旋階段を見下ろす。

此処からでは果てが見えないほどに深く、暗闇が広がっている。


「深いな…この下に何があるのだ?」

「ワイの“本体”やね」


暗黒騎士が呟いた言葉に怪生物が答える。

しばし、見つめ合う暗黒騎士と怪生物。

そこで改めて暗黒騎士はこの怪生物と向き合おうと思った。


「女神よ、先程までは流していたがは何なのだ?」

「だから、それ蕃神ですって。

 巨神は完全に手動制御なのに対して蕃神は操者を選べるように人口精霊を付与してるんです。」

「せやで。 まぁ、このままだとワイは単なる無害な可愛いだけの精霊ちゃんやけどな。 ちぃちゃな蕃神、ミニ蕃神ちゃんとでも呼んでや?」


可愛いアピールをしているミニ蕃神の背後で勇者が両手に紙を持って立っていたかと思うと、何の躊躇もなく勢いよく挟み込んだ。


「ぶぎゃあ!?」


勇者が挟み込んだ紙と手の間で断末魔を上げるミニ蕃神。


「な、何しとんねんお前!?」

「いや、何か声聞いてたらカードに封印出来るかなって」

「色々怒られるんでダメやで!!」


ズタボロで勇者の両手の間から逃れたミニ蕃神が意味深だけど無意味な言葉を喚き散らしている。


「まぁいいや、じゃあその本体とやらを見に行こ」

「切り替えはやっ!? あぁん、いけずぅ」


勇者はミニ蕃神への興味を喪失したのか、もしくは単に飽きたのか。

ミニ蕃神は放置したまま魔法使い達を促して螺旋階段を降り始めた。

ミニ蕃神もどこから取り出したのか不明のハンカチを噛んだ後、何事もなかったかのように勇者達を追いかけていく。

暗黒騎士と女神も後を追いかけていくのだが、

そこで暗黒騎士が女神に疑問をぶつける。


「ところで女神よ、アレも含めて巨神や蕃神とは一体何なのだ?」

「言いたい事は分かりますよ、500とは思えないという事ですよね?」

「あぁ、下手をすると…いや、しなくても現状の技術や魔導を駆使してもあのようなものが造れるか…」


巨神も、人口精霊と名乗るミニ蕃神もハッキリ言って超技術の産物である。

それを遥か昔に人魔一体とはいえ造り上げられるものなのだろうか?


「まぁ、先にぶっちゃけてしまえば異界の邪神と一緒に流れてきたモノを当時の人と魔族が見様見真似で真似したものです。

 再現不可能な物などは私の奇跡で流用しました」

「フム、そうすると…もう再度造り上げる事は出来ないのだな?」

「えぇ、私は協力しませんし、元より人魔それぞれの地でしか採取できない鉱石なんかもふんだんに使ってますからね。

 真似しても精々出来の良いゴーレムが出来る程度ですよ」

「そうか、ならば一度完膚なきまでに破壊してしまえば、

 もう利用される事はなさそうだな」


女神の説明で魔王軍が巨神を量産する可能性はほぼ否定されたので安堵する。

自然第一主義の精霊王がそこまでするとは思えないが、追い詰められた者が何をするかは想像できない。


「相変わらず過保護ですねぇ、大体は何とかなるというのに」

「うん、一応人族の信仰対象のお前が言うな?」


かなり深くまで降りた所で、先を行っていた勇者達が立ち止まっているのが見える。


「フム、どうやらそこまで辿り着いたか」

「あっ、おじさま。ねぇねぇ、見てあれ!」


勇者がランプを翳しながら指を指す。


「うわぁ…」


勇者が指さした先にあるのは巨大な扉とそれに刻まれた女神の姿。

扉を調べていた学者が額の汗を拭って、一息ついている。


「こんな歴史歴な遺物を見る事が出来るなんて…あぁ、感無量です!」

「感動している所悪いが、開かんのかこの扉は?」

「あっ、それは大丈夫そうです…というより…」


学者の視線が暗黒騎士の後方に向けられており、それの意味する所に気づいた暗黒騎士は嫌々ながら背後を振り返る。

そこには完全に鼻を高くして胸を張っている女神。


「あっ」


もう何か色々と察してしまう。


「ふっふっふっ…知りたいですか? 知りたいですよね?

 いいでしょう、教えて差し上げましょう!」

「勝手に喋り出したぞ」

「この扉は『寵愛の扉』! これを開ける方法はただ一つ!

 女神の好きな所を100個述べてください! 信徒ならば簡単ですよね!!」


静まり返る一同。


「暗黒剣で何とかいけないかな?」

「通路を傷つける可能性があるが、試すだけ試してみるか」

「魔法で急速に冷やしてから加熱して劣化させてみるのはどうですの?」

「一か所に攻撃集中すれば壊れないかな?」


武器を構える勇者と暗黒騎士、代替案も考える魔法使いと魔族娘。


「あれー!? 簡単、簡単ですよー!?」


女神だけが理解出来ないといった様子で叫んでいた。


勇者歴16年(秋):勇者一行、無理難題を強いられる。

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