186話―鎚が砕くか、鎧が弾くか

 一回戦が終わったその後も、アゼルの勢いは止まらない。続く二回戦でも、対戦相手が操る二体のスケルトンをブラック隊長だけで秒殺してみせた。


 二回戦ともなると、アゼルもエンターテイメント性を重視するようになっていた。ただ単に相手を倒すのみならず、ブラック隊長の剣技を見せつける。


「なんと~! 二回戦第一試合、またしてもアゼル選手が魅せてくれました! あのスケルトン、どれほどまでに訓練すればあそこまでの華麗な剣捌きが出来るというのでしょうか!?」


「ふむ、ここまでとはのう。流石のわしも驚きじゃわい。ジェリド王の末裔……なんと素晴らしい妙技を見せてくれおるわ」


 観客たちが沸き立つなか、ミーナがさらに場を盛り上げ、メリムルがアゼルの絶大なテクニックを称賛する。


「さあ皆さん、アゼルさまを応援しますわよ。フレー、フレー、アゼルさま! ハイ! フレー、フレー、アゼルさま! フレー、フレー、アゼルさまー!」


「わーーーー!!!」


 どこから持ってきたのか、アンジェリカはチンドン太鼓を鳴らして熱いエールをアゼルに送る。十人近い女性ネクロマンサーたちも、彼女に続く。


 試合の最中、アンジェリカによって結成されたアゼル応援部隊だ。彼女らもまた、骨のぽんぽんを振り回しチアリーダーのようにダンスを踊る。


「さあ、二回戦第四試合が終了しました! これにて、準決勝に進む四人の選手が確定しましたよ~!」


「相も変わらず、ベクターとロデアは準決勝まで残っておるのう。それに……今回は、アゼルもな」


 前大会チャンプ、ベクターの勝利で二回戦最後の試合の幕が降りた。順当と言うべきか、準決勝にはアゼルを含めた実力者たちが残る。


「ここまで盛り上がってるんですから、当然! 休みなんてありませ~ん! 選手のみなさーん、ヘバッてないですかー?」


「問題ないさ。この程度でダウンするほど、ヤワな鍛え方はしてないからね」


「……右に同じく」


「ぼくだって、まだまだ元気いっぱいですよ!」


「だそうです。ということで、早速準決勝第一試合を始めちゃいましょー!」


 一回戦からノンストップで試合が続いているが、皆元気が有り余っていた。ベクターとその対戦相手が、控えの間に降りる。


 そして、アゼルとロデアが舞台に上がる。初出場で優勝を狙うダークホースと、三年連続準優勝者の対決が始まるのだ。


「君の試合、見させてもらった。とても惚れ惚れするスケルトン捌きだ。ここまで洗練された技術、この目で見れたことを嬉しく思う」


「ありがとうございます、えーと……」


「ロデアだ。呼び捨てにして構わない。この戦い、全力で楽しもう。私も、君も……ね」


「はい! ここからは、本気でいかせていただきますよ!」


 舞台の上で、二人は闘志を燃やす。これまでの試合で、ロデアは巨大な骨のこん棒の一撃で相手を仕留めてきた。


 こちらも本気を出さなければ、勝つことは出来ないだろう。そう考えたアゼルは、覇骸装の力を解禁することを決める。


「さあ皆さま、いよいよ準優勝が始まりますよ! 青コーナー、秒殺の貴公子アゼル! 赤コーナー、膨拡の奇術師ロデア・ザ・エクスパンション!」


 ミーナの声に合わせ、二人は構える。視線を真っ直ぐ相手に向け、いつでも飛び出せるようにしていた。


「果たして、勝つのはどちらか!? 今ここに、歴史に残る一戦が始まります! それでは……試合開始!」


「来い、骨殻鎚エクスバント!」


「出でよ、魔凍斧ヘイルブリンガー!」


 試合開始を告げる銅鑼の音が鳴り響いた瞬間、二人は同時に己の得物を呼び出す。赤黒く染まった巨大な骨のこん棒と、冷気を纏う斧が現れる。


「戦技、アックスドライブ!」


「戦技、スカルインパクト!」


 鎚と斧がぶつかり合い、あまりの威力に凄まじい衝撃波が発生する。試合の余波が観戦席に及ばないように張られたバリアに直撃し、亀裂が走った。


 それだけ、アゼルとロデアの持つパワーが凄まじいのだ。ロデアはニッと微笑み、つばぜり合いをしながらアゼルに声をかける。


「ふっ、これは驚いたな。そんな華奢な身体に、これほどまでの力を宿しているとは」


「ええ、スケルトンを操るだけがぼくの取り柄ではありませんから」


「おーっと、これは凄い! 両者共に一歩も退かず、互角につばぜり合っております!」


「純粋なパワーなら、ロデアはベクターをも上回るが……それと互角とはの。しかも、あの斧……ジェリド王が用いた凍骨の大斧によう似ておるわ」


 アゼルとロデア。これまで共に相手を瞬殺してきた二人のぶつかり合いに、観客たちは熱狂する。ミーナも興奮するなか、メリムルは冷静に呟きを漏らす。


「私は見たい。君の中にある力を、もっと! だから、私と共に踊っておくれ。血沸き肉踊る、豪華絢爛な舞いを!」


「!? こん棒が、膨らんで……うわっ!」


「さあ、見せてあげよう。私の自慢の……骨殻拡張エクスパンション戦法を!」


 それまでのクールさはどこへやら、ロデアは好戦的な笑みを浮かべこん棒に魔力を流す。すると、こん棒が一回り大きく膨らみ、アゼルを弾き飛ばした。


「おーっと、早速出ました! ロデア選手の十八番、骨殻拡張エクスパンション戦法が! 大きく重く、破壊力を増したこん棒の一撃を耐えきれた者は、未だかつておりません! アゼル選手、どうなる!?」


「なるほど、そういうことですか。確かに、これは威圧感たっぷりですね……」


 膨張したこん棒を軽々と肩に担ぎ、ロデアはゆっくりと間合いを詰めてくる。その姿は、かつて共に戦った戦友、ディアナを彷彿とさせた。


 アゼルはヘイルブリンガーを左手に移し、覇骸装を変化させる。基本状態の耐久力では、これ以上耐えられないと考えたのだ。


「チェンジ、重骸装フォートレスモード! そのこん棒の攻撃に耐えられた者がいないなら……ぼくが第一号になってみせます!」


「ふふ、いいね。そうこなくては。では、行かせてもらおう。戦技、テンペストインパクト!」


 守りを固めるアゼルに向けて、ロデアは勢いよく突進する。そして、軽々とこん棒を振り回し嵐のような乱打を叩き込む。


「ロデア選手、猛攻撃です! 対するアゼル選手は、身を守るのに精一杯の様子! 反撃に出ることも出来ず、このまま敗れてしまうのかー!?」


「アゼルさま、ファイトですわ! 相手のスタミナが切れるまで耐えきれば、反撃のチャンスですわー!」


「ロデア様ー! そのまま押しきれー!」


 鎚が勝つか、鎧が勝つか。ミーナが煽るなか、それぞれのファンたちがエールを送る。ロデアは声援に応えるべく、さらに攻撃速度を上昇させた。


 一方のアゼルは、じっと攻撃を耐え忍ぶ。焦って動けば、守りが薄くなったところを叩かれ負ける。故にまだ動かない。


 が来るのを、待ち構えているのだ。


「なかなか頑強な鎧だ。これまでの対戦相手は、多くて数発耐えるのが関の山だった。だが……君は違う。もう、百発近く私の攻撃を耐えている。ああ、実に素晴らしい」


「誉めてくれてありがとうございます。何しろ、ジェリド様からいただいた装束ですから。防御力は高いですよ、とっても」


「面白い。なら、意地でも砕いてみせよう。戦技、エクスパンション・ブレイク!」


 乱打を浴びせるのをやめ、ロデアは一旦バックステップで後退する。さらにこん棒を膨張させ、勢いよく上空へ飛び上がった。


「あーっと、あの構えは!? 間違いありません、去年の決勝で炸裂したロデア選手の切り札であります!」


「あの時はドデカいクレーターが出来たのー。今回はどうなるか、見物じゃ」


 ミーナとメリムルが実況するなか、ロデアこん棒を形成する骨の隙間から勢いよく蒸気を噴射する。その勢いを利用し、加速しながら降下していく。


 真上から、アゼルを叩き潰す。それが彼女の狙いだ。


「さあ、受けてみよ! 私の奥義を!」


「なら、耐えきってみせます! ガードルーン……イジスガーディアン!」


 対するアゼルは、盾を装着している右腕で頭を庇いながらルーンマジックを発動する。ドーム前千代崎状のバリアが形成され、アゼルを覆う。


 そこへ、加速したロデアが降ってくる。こん棒が振り下ろされ、いとも容易くバリアを粉々に砕いてしまった。だが……。


「む、ぬうう……!」


「おおおおお!? な、なんと! アゼル選手、ロデア選手の切り札を……」


「まさか、耐えおったのか!?」


 バリアは砕けても、覇骸装は砕けない。大地を踏みしめ、アゼルは耐えきった。ロデアの奥義を、完全に防いでみせたのだ。


「なん、だと……!? 私の奥義を、耐え抜いたのか!?」


「ええ、かなり痛かったですけど……耐えましたよ。では、今度はぼくの番です! 戦技、ブリザードブレイド!」


「しま……かはっ!」


 奥義に全ての力を使ったロデアに、アゼルの攻撃を避けるだけの余力はなかった。勢いよくヘイルブリンガーが振り上げられ、カウンターの一撃が炸裂した。

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