【90000PV感謝】パーティーを追放されたネクロマンサー、実は伝説の王の末裔でした～死者蘇生チートの力で、少年は英雄として成り上がる～

99話―リベンジ！ 伴神ベルルゾルクを倒せ！

「この戦い、何者であろうとも手出しはさせぬ。貴様らは見ているがよい。我らに逆らった愚か者が、どのような末路を辿るのかを！」

　アゼルに向かって走りながら、ベルルゾルクはそう叫ぶ。魔法陣の中央、二人を囲むようにドーム状の結界が出現して内と外を隔絶してしまう。

　結界の中から脱出する方法は、ただ一つ。ベルルゾルクを滅ぼし、結界を消滅させる。そのための力が、今のアゼルには宿っているのだ。

「言っておくが、頼みの骨どもを出しても無意味だぞ。呼び出したところで、現れるのは結界の外。戦いには加勢させられぬ。さあ、食らえ！　パニッシュメント・スピアー！」

「当たりませんよ、そんなもの！　てやあっ！」

　ベルルゾルクは右手を伸ばし、手のひらから槍を発射して先制攻撃を行う。対するアゼルは、スライディングで攻撃を避けつつ腕を振るい、槍をブレードで切り落とす。

「貴様！」

「前のぼくと同じだとタカをくくっていると、痛い目に合いますよ。もう、ぼくは負けるつもりはありません！　戦技、ボーンシザーズ・スラッシュ！」

「くっ……おのれ！」

　アゼルが放った攻撃は、ベルルゾルクにとって以前であれば避ける必要もなかった攻撃だ。しかし、今は違う。相対する少年の身体には、神殺しの力が宿っている。

　故に、ベルルゾルクは後ろへ退く。被造物相手に、後退せねばならない……その事実が、天よりも高く海より深い伴神のプライドに、小さなヒビを入れた。

「このワレを退かせるか……！　忌まわしい、腹立たしい、許しがたい！　何とも傲慢なものよ！　造物主たる神に歯向かうとはなァ！」

「お言葉ですが、この場にいる者は皆、あなたを……いえ、あなたたちをもう、神として崇めてはいません。許されないのは……あなたたちの方ですから！」

「ならば何とする？　ワレを殺すか？　不可能なのだよ、そのようなことは！　パニッシュメント・スタルディオン！」

「アゼル、気を付けよ！　相手は何をしてくるか分からぬぞ！」

　後ろに下がったベルルゾルクは、両手を魔法陣に叩き付けながら叫ぶ。不穏なモノを感じ取ったリリンが警告した直後、魔法陣に変化が現れる。

　紫色の小さなサークルがいくつもアゼルの周辺に浮かび、その中から無数の槍が突き上がってきたのだ。神に背いた者を、串刺しにするべく。

「貫いてやるぞ！　貴様の身体を、下から上にな！　無様な骸を晒すがよい！」

「そうはいきませんよ！　戦技、ボーンスニーク・ステップ！」

　五感をフルに使い、アゼルは不規則に突き上がってくる槍を華麗なステップで避けていく。それと同時に、ブレードを振るい槍を切り落として破壊する。

「いいぞー！　やれー！」

「頑張れ！　負けるなー！」

　二人の戦いを見ていた騎士たちは、アゼルに声援を送る。その時、上空からキーンという甲高い音が響く。リオたち四人の魔神が、空に開いた亀裂を閉じたのだ。

「魔神どもめ……余計なことを！」

「アゼルくーん、これでもう敵の増援は来ないよー！　さ、後顧の憂いも絶ったし……存分にやっちゃって！」

「ありがとうございます、リオさん！　これでもう……心配することは何もない。ベルルゾルク、覚悟！」

　伴神は孤立した。この場にはもう、ベルルゾルクを助ける者が現れることはもうない。正真正銘、一対一の殺し合いが行われるのだ。

「フン、闇の眷属どもなど、元よりアテになどしておらぬわ！　この技で仕留めてやろう。パニッシュメント・ソーサー！」

「！　これは……丸ノコ？」

　串刺しにするのは不可能だと感じたベルルゾルクは、次なる手を使う。サークルが消え、今度は白い丸ノコが出現する。アゼルが身構えると、丸ノコが動き出す。

　激しく回転しながら、アゼル目掛けて突っ込んできた。下手に受ければ、ブレードがヘシ折れる。そう直感で悟ったアゼルは、咄嗟に横へ飛び退く。

「避けるか。だがムダだ。パニッシュメント・ソーサーは貴様を追い続けるぞ。その骨肉を切り裂き、絶命させるまで！」

「うっとうしい、な……。この丸ノコは！」

　アゼルの動きに合わせ、鈍重ながらも丸ノコが執拗に追尾してくる。今のアゼルには、ブレードが命綱。射骸装（アーチ）モードのクロスボウは隙が大きくて使えず、重骸装（フォートレス）モードは盾しか武装がない。

　凍骨の大斧は破壊され、スケルトンの加勢も不可能。つまり、ブレードを失ってしまえばそこでゲームオーバー。故に、アゼルは考える。

（さて、どうやってこの丸ノコを攻略しようかな。見たところ、ベルルゾルクは丸ノコの操作に集中してて動く気配はなし。だったら……少し危険な賭けになるけど、やってみよう！）

　丸ノコを避けながら打開策を考えていたアゼルは、一つの案を閃く。少々危険ではあるが、膠着状態が持続するよりは……と、ベルルゾルク目掛けて走り出した。

「フン、何を考えているか大体読めるぞ。大方、貴様の攻撃と丸ノコで連撃を叩き込むつもりなのだろう？　残念だったな、ワレが動けぬとでも思ったか！」

「まさか。その逆ですよ。ぼくが近付けば、あなたは迎撃にくる……そうでしょう？　なら……こうするまでです！」

「なっ！？　むぐおっ！」

　アゼルを迎撃しようとしたベルルゾルクだったが、あらかじめその動きは予測されていた。アゼルは羽織っていたローブの襟を掴み、アゼルは相手の頭に勢いよく被せたのだ。

　まさかの行動に、戦いを見守っていた騎士たちやリリン、シャスティも唖然としてしまう。しかし、リオだけはアゼルの狙いに気付いていた。

「んー、なるほどね。ここであえて攻撃せず、視界を奪う。そうすれば、取れる選択肢が増えるから」

「ほえー、なるほど。まあ、あのベルルゾルクってやつ、攻撃が来るってことしか考えてなかったみたいだし。まんまとしてやられた、ってわけかー」

　リオの頭を撫でつつ、クイナは感心したように頷く。その間にも、アゼルはベルルゾルクの背後に回り込み、ローブを外されないよう引っ張る。

「このっ、離れろ！　薄汚い布をワレの頭に被せるな！」

「薄汚いだなんて心外ですね！　これはぼくの両親の……っと、そろそろ終わりの時間が来ましたね。さようなら、ベルルゾルク。自分の技で滅びなさい！　てやっ！」

「ぐっ、貴様……」

　丸ノコが到達するまでの時間を稼いだアゼルは、ローブを取り払い回収する。ダメ押しにと、丸ノコの方へベルルゾルクを蹴り出した。

　己の放った技で、無様にも自滅するかと思われた……が、刃が直撃する寸前で丸ノコが消滅してしまう。自滅を免れるために、ベルルゾルクが技を解いたのだ。

「くっ、危なかった……もう少しで間抜けな死に様を晒すとこ……ろ……がはっ！」

「晒してもらいますよ、なんとしても……無様な死に様を！」

「貴様……！　そうか、先ほどの行動も……このための、フェイントか！」

　難を逃れた、と思ったのも束の間。即座にアゼルが踏み込み、背後からベルルゾルクの身体をブレードで貫いた。少年の行動の全ては、この一撃を放つためのものだったのだ。

「ええ。ぼくはこのブレードを失ったら、あとは使い勝手の悪いクロスボウしかないので。確実にトドメを刺すために……ちょっと回りくどかったけども、策を練らせてもらいました」

「ク……クハハ。なるほど、謀（たばか）られたというわけか。神を欺くとは……侮ってはならぬのは、神殺しの力のみではなかったと……いう、ことか」

「ええ。そういう……ことです！　さらば、ベルルゾルク！」

　アゼルは素早く腕を振り上げて、ベルルゾルクの身体を切り裂く。腰から上を真っ二つにされ、黄金色の血が吹き上がる。

「ぐ……がああああああ！！」

「さようなら、ベルルゾルク。あの世で……己の犯した罪を、悔いなさい」

　絶叫するベルルゾルクに、アゼルはそう通告する。今……最初の神殺しが、成ろうとしていた。