28話―モンスターズ・クラッシュ!

「ヴァシュゴル、お城の人たちをどこへやった!」


「クフフ、心配することはないさ。皇帝たちはみんな、牙の同志たちの手で城の地下牢に閉じ込めてある。この国の終焉を! 絶望と共に見届けさせてから殺すためにね!」


「そんなこと、私たちがさせるとでも思うか? ここで貴様を倒す! バイドチェーン!」


「ハッ、そんなもの当たるかよ!」


 リリンが発動した先制攻撃をヒラリと避け、ヴァシュゴルは玉座の上に降り立つ。悪意に歪んだ醜悪な笑みを浮かべながら、芝居掛かった仕草で腕を振る。


「何のためにお前たちがここに来たのか、私は全部知っているとも。だが残念、スタンピード計画は多少日にちがズレようが問題なく決行出来るようにしてあるのさ!」


「何!?」


「ほぉら、こんなところでぐずぐずしていていいのかなー? 早く外に行かないと、オトモダチがみんな死んじゃうぜ! ハーッハハハハハハ!!」


 次の瞬間、アゼルは帝都の外に無数の邪悪な気配が出現したのを察知した。どんな方法を使ったのかは分からないが、ヴァシュゴルが大量の魔物を呼び寄せたのだ。


 アゼルたちが驚いてる間に、ヴァシュゴルは転移用の魔法陣を背後に作り出し、挑発の言葉を残してその中に飛び込み姿をくらませてしまう。


「チッ、一杯食わされたか」


「お姉ちゃん、早く城を出ましょう。魔物の群れを退けて帝都を守らないと! よし、今こそこの指輪の出番です。サモン・守護霊ガーディアンムル!」


 二人は帝都の外にひしめく魔物たちの討ち滅ぼすため、城の外へ向かうことを決める。アゼルは守護霊の指輪を使い、ムルの分身を召喚した。


『我を呼んだか、アゼルよ。霊獣ムル、そなたの力となろう』


「ムルさん、ぼくたちを乗せて街の外に連れてって! 急がないと、魔物たちが入ってきちゃう!」


『承知した。二人とも、我の背に乗るがよい。しっかり掴まっていろ、全力疾走するぞ!』


 ムルの背に跨がり、アゼルたちは一気に帝都を囲む城壁の外へ向かう。街の外ではすでに戦いが始まっており、帝国騎士団と冒険者の連合軍が、大量の魔物たちと戦っていた。


「とんでもない数だな、目測だけで数百……いや、下手をすれば千を越えかねんぞ。アゼル、私たちも加勢するぞ!」


「はい! 気合い入れていきますよ!」


『そなたらはここで降ろそう。我はきゃつらの群れに突撃し、内側より陣形を崩す。武運を祈るぞ!』


 城壁の近くにアゼルとリリンを降ろしたあと、ムルは魔物たちの群れに突撃していった。オークやコボルト、レッサーデーモンといった下級の魔物たちは、それだけで数が減っていく。


「あの狼は……むっ、そこにいるのはアゼル殿! 助太刀に来ていただけたか! 感謝する!」


「アシュロンさん! よかった、無事だったんですね」


「ハハハ! このアシュロン、そう簡単にはくたばらん! ……しかし、戦局はよろしくない。敵はざっと千近く、我らは半分程度の数しかおらぬからな」


 城壁の近くで指揮を採っていたアシュロンを見つけたアゼルたちは、彼と合流する。現状、なんとか魔物たちを押し止めてはいるが、突破されるのは時間の問題だという。


「下級の魔物どもはともかく、ワイバーンやサイクロプスのような上級の魔物も戦線に混ざっているせいで負傷者が絶えぬのだ。それに……倒した魔物たちの死体も、我らに攻撃してきおる」


「なるほど、ヴァシュゴルの仕業ですね?」


「恐らくな。私は奴の姿を見ていないが、前線にいる冒険者たちがそれらしき者を見たと報告している」


「あいつの相手はぼくに任せてください。ヴァシュゴルを倒せば、アンデッドはただの死体に還りますから」


「済まぬな、私たちは城壁を守るので手一杯なのだ。聖堂騎士たちが到着すれば、押し返せるのだが……」


 その時、前線の方から激しい爆発音が聞こえてくる。空を見上げると、無数のエルダーリッチが浮遊しながら地上へ魔法を放ち攻撃しているのが見えた。


「あれは!」


「アゼル、行こう。奴らを手早く倒さねば、冒険者たちが全滅してしまう」


「分かりました。アシュロンさん、ご無事で!」


「うむ。そちらも気を付けられよ!」


 アシュロンと別れ、アゼルとリリンはコボルトの群れを蹴散らしつつ前線に飛び込む。アゼルはスケルトンアーチャーを呼び出し、エルダーリッチを狙撃させる。


「スケルトンアーチャー、エルダーリッチを撃ち落として!」


「私も助太刀する、負傷した者たちは退け! プロミネンスレイン!」


 総勢十二体のスケルトンアーチャーと、リリンが放つ炎の雨がエルダーリッチたちに襲い掛かり、少しずつその数を減らしていく。


「ウグアアア! ア、熱イィィ!」


「クッ、退ケ退ケ! ヴァシュゴル様ト合流スルノダ!」


 アゼルたちの攻撃を受け、生き残った二体のエルダーリッチは後方へ退却していった。アゼルはスケルトンアーチャーを消し、今度は十五体のスケルトンナイトを呼び出して壁にする。


「皆さん、大丈夫ですか?」


「ああ、済まねえ、助かったぜ。もう少しで全滅するとこだったよ。幸い、死人が出なくてよかった」


「ここは私たちに任せて下がれ。途中で死体を見つけても無視しろ。ヴァシュゴルが……」


「呼んだかなぁ、ゴミクズども! 逃がすとでも思ったか!」


 負傷した冒険者たちが撤退しようとしたその時。タイミングを見計らったかのように六体のワイバーンを連れたヴァシュゴルが上空に現れ、退路を塞いでしまう。


「くそっ、こんな時に!」


「クハハ、こんな時だからさ。そっちは……全部で三十人くらいいるかなぁ? でも、ほとんど死にかけだね。じゃあ、追い打ちかけようかな! ネクロファンタズマ!」


「! 魔物どもの死体が!」


 確実にアゼルたちを全滅させるべく、ヴァシュゴルは周辺に散らばっている魔物たちの死体を操り、生きる屍へと変える。数十体のアンデッドに囲まれ、もはや勝ち目なしかと思われたが……。


「へっ、アタシを忘れてんじゃねえぜ、クソ野郎! 戦技、ブレイカブルハンマー!」


「む? チッ、余計な奴が来たか!」


「シャスティお姉ちゃん!」


 回転しながらハンマーが飛来し、アンデッドたちを薙ぎ倒しながら退路を作り出す。その間に、アゼルはスケルトンナイトを総動員し、ワイバーンへ攻撃を行う。


「皆さん、スケルトンナイトたちで敵を抑えます! その隙に撤退してください!」


「済まねえ、助かった!」


「逃がすかよ! ワイバーン、炎のブレスで燃やしてやれ!」


「させぬ! マジーラシールド! アゼル、私は彼らを安全地帯へ連れていく。ここは任せたぞ!」


 避難しようとする冒険者たちへ、空へ飛び上がったワイバーンが炎のブレスを吐き全滅させようとする。しんがりについていたリリンが魔法の障壁を作り出し、ブレスを防ぐ。


 魔物たちやアンデッドの群れを蹴散らしつつ、リリンは彼らの護衛として一端城壁の方へ下がっていった。


「スケルトンナイト、陣形変更! タワートーテム! ワイバーンを地面に引きずり降ろしてあげなさい!」


「アタシも手伝うぜ、アゼル。ゼヴァーのおっさんが準備すんのすっトロくてよ、遅れちまった」


「いえ、援軍を連れてきてくれてありがとうございます、シャスティお姉ちゃん」


 城壁の方を見ると、魔物の群れの隙間からシャスティとゼヴァーが連れてきた聖堂騎士たちの姿が見えた。数の差は縮まり、互角の戦いがそこかしこで繰り広げられる。


「それっ、戦技ボーンストラッシュ!」


「アタシもやるぜ! 戦技、アッパーブーメラン!」


「グギアアァ!」


 スケルトンナイトとシャスティの連携で、ワイバーンを各個撃破していく。その様子を、ヴァシュゴルは遥か上空から眺めていた。


「ふん、この程度でいい気になられても困るね。まだこっちには切り札が残ってるんだ。結構死体も増えたし、そろそろ出してもいいかな」


 地上で奮闘するアゼルやシャスティ、騎士団ら連合軍を眺めながらそう呟くと、生き残っていたエルダーリッチを自分の元へ呼び寄せる。


「お前ら、最後の仕事だ。私が合図したら、全魔力を使って魔法陣を作り出せ。例のモノを呼び出す」


「シ、シカシソレデハ我々ハ消滅シテシマイマス!」


「ごちゃごちゃうるせえな。じゃあいいや、お前ら吸収して自分でやるわ」


「ナ……ギャアアァ!」


 ヴァシュゴルは懐かは漆黒のオーブを取り出し、その中にエルダーリッチを吸い込んでしまった。そのままオーブを体内に取り込み、ニヤリと笑う。


「よぉし、これで魔力のチャージは完了だ。さあ、呼び出すとしようか。出でよ! リビングゴーレム!」


「な、なに!? この模様は!」


「アゼル、気を付けろ。何か出てくるぞ!」


 地上に巨大な魔法陣が描き出され、アンデッドたちや魔物の死体が吸い込まれていく。その直後、魔法陣の中からヴァシュゴルの切り札……巨大な屍の巨人が現れた。


「ハハハハハ! さあ、ここからが本当の戦いだ!」


 帝都の空に、ヴァシュゴルの声がこだました。

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