必殺! キューカイブラスター!

 ミューパは敗北寸前だった。

 砕かれた頭部が命を放出してしまっていることに自身も気づいている。


 だからこそ焦らず冷静さを瞬時に取り戻す出来たようだ。

 ここで対応を間違えれば、確実に消滅することから異世への撤退も思考の片隅にとどめおく。


 しかし、その思考を吹き飛ばしたのが翔香の憐れみだった。

 戦えないと女々しく喚いていた少女に追い詰められた事実もまた、ミューパの誇りを大きく傷つける。


「食事などどうでもいい! 狩人の誇りにかけて、ここで君を殺す!」


「くっ……この分からず屋!」


 両者の上段を狙った回し蹴りがぶつかり合い、古びた瓦礫達がざわめく。

 わずかに翔香の威力の方が上だったのかわずかにミューパの足が押し返された。

 すかさず膝蹴りで前に出るがミューパは壊れた兜から伸ばした口吻で翔香の身体を拘束する。


「なっ!?」


「ハハハハハハハハハハ! 甘いですねぇ!」


 軽々と持ち上げられた翔香は脳天から地面へと叩きつけられた。

 それはまさしく次の攻撃を誘うための撒き餌。

 蝶とは思えぬ駆け引きに、明滅する視界で歯を食いしばり翔香は意識を手放すことに抗った。


「やっと、胸を張ってヒーローだって思えるようになったんだもん……こんなところで終われない!」


「終わってしまうんですよぉ!」


 軽々と翔香を宙づりの状態に戻すミューパはより勢いをつけて翔香を地面へと打ち付けようと顔ごと口吻を振り下ろした。


「やらせないわ!」


 しなやかに空を切り裂き翔香の足を掴んだ氷の鞭が、逆に空中へと引き上げる。

 下に引く力と上に引く力が拮抗したかと思えば、炎の轍が翔香を縛り上げる口吻の主のところまで伸びていく。


「仲間を返してもらう!」


 空気中の水分すら消しとばしていく灼熱の斬撃。

 引き抜かれていたブレイザーブレイバーがミューパと翔香を繋いでいた口吻を斬り裂く。

 断面が焦がされたせいで即座に回復することも叶わず、悶絶しながらその管を振り回した。


「き、貴様らぁ!」


 おかげで自由を取り戻した翔香は華麗に着地し、お礼の言葉すら置き去りにするほどの超加速でミューパに特攻した。


「ふふっ。まるで別人ね」


「とやぁぁぁぁぁぁぁ!」


 呆気に取られたエレナもすぐさま鞭を翻して追いかけるが、翔香は熱太と共に暴れるミューパと肉弾戦を演じていた。


「先輩、合わせて!」


「よく言った!」


 スライディングしながらミューパの足を払い、バランスを崩した瞬間に顔面を蹴り上げる。


 前に屈まされ、今度は仰け反らされて。攻撃の勢いが羽根による制御を上回った瞬間、狙いすました炎の一閃がミューパの片翼を斬り落とした。


「グアアァァァァァァァァァァァァ!」


 敵のアイデンティティを奪い去る一撃に日本中が沸いた。

 レスキューワールドの完全復活とも言える戦いぶりに、誰もが歓声を上げている。

 ヒーローとして、人々の希望として、その名に恥じない戦いが出来ている、その自負を熱太、エレナ、翔香は感じられていた。


「エレナ! 翔香! このまま決めるぞ!」


「ええ!」


「はい!」


 集まった三人が手を重ね合わせる。

 すると彼らの展開からレスキューワールド最強の兵器が生み出される。

 多種多様な武器を擁するレスキューワールドは自身の展開に大量の武器を保持しているのだ。


「地球の未来は俺たちが救う! 来い!」



「「「キューカイブラスター!」」」



 戦隊モノのヒーローらしいバズーカ型の大型銃。


 全体的に白い銃身に赤、青、黄の装甲がより重厚な印象をもたらした。

 おもちゃの売り上げもこの最終兵器は熱太のブレイザーブレイバーに引けを取らない。

 それを熱太が担ぎ、エレナと翔香は両脇から支える形でミューパへと銃口を向ける。


「これで終わりだ!」


 よろよろと起き上がるミューパは自慢の鎧が半壊どころではない状態になって、やっと撤退を視野に入れ始めた。

 誇りすらどうでもよくなる死の恐怖に自らの背後に異世への裂け目を創り出す。

 逃すな、早く倒せなどの伝令が通信回路を飛び交う中、キューカイブラスターがチャージしきれていないことに三人は焦ることもなかった。


「この借りは必ず……」


「あ〜、いいよ。どうせもう返せないし」


「何を馬鹿な……では、また会いましょう」


「逃げられるわけねぇだろ?」


 そう。この戦場には「ヒーロー」が戦いやすいように援護する彼らがいる。


「なっ!?」


 生み出された裂け目を吸収しながら、飛彩の封印されていた左腕オリジンズ・ドミネーションが霧散する黒い影を突き破り急襲する。


「どうだい? これが狩られる側ってやつだ?」


「貴様ァ……!」


 恨みのこもった視線を左手で払いながら、ミューパへと一瞥をくれる飛彩。

 本当はトドメを刺したいところだが、このタイミングでヒーローの見せ場を奪えば流石に編集でもどうにもならない。

 派手な大技に協力してやろうとあえてミューパと熱太たちの間、つまり射線上へおどり出る。


「あと何秒だ?」


「ごめん! 十秒お願い!」


「けっ、簡単過ぎて反吐が出るぜ」


 十秒、飛彩にとっても簡単な時間稼ぎであるが、ミューパにとっても目の前にいる 飛彩を振りほどいて異世へ逃げるのに十分すぎる秒数だった。


つまりミューパもまた光明を得たも同然。


 勝気な飛彩からは攻撃的な視線がこれでもかというほど漏れていた。

 数度の戦いの中でミューパは、自分を戦闘不能にさせて上でレスキューワールドの技を受けさせるだろうと読んでいた。

 間違いなく左肩にくれてやった一撃の借りを返してくるはずだ、と。


「オラァ!」


 予想通り、と振りかぶった左腕を読みきっていたミューパは後ろへ飛ぼうと片翼を羽撃かせる。


「ぐっ……!」


 だが、自分がそう読まれていると飛彩もまた敵の思考を読み切っていた。

 右足に忍ばせていた小太刀で、後ろに下がろうとしたミューパの左足の甲を串刺しにする形で踏みつけたのだ。


「避ける気持ちが見え見えだっつーの」


 平常時ならば左肩の礼を与えるところだが、今回はヒーローに全て見せ場を譲ると決めている飛彩は小太刀を置き去りにしてミューパの右膝を側面から砕く。


「まだまだ立派な羽根があるもんなぁ?」


「や、やめッ!」


 吸収していたヴィランのエネルギーを左腕に纏い、鋭い大刀と化した一撃がミューパの残りの羽根をバターのように斬り落とした。

 割れた羽根は眩いステンドグラスのように光を反射させる。


「大人しくしておけ、芋虫みてぇにな」


「に、人間めぇ!」


「じゃーな、地獄で会ったらまた相手してやるよ」


 軽々とミューパを飛び越した飛彩はホリィの能力で安全地帯まで確実に撤退する。

 それを尻目でみたミューパは、片膝をついた状態でキューカイブラスターの銃口を見つめることしか出来なかった。

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