新たに歩き始める4人<Ⅱ>

「人の主に何をしている」


 音がして目を開けると、いつの間にか現れたアティウラがロングスカートをなびかせながらその剣を受け止めていた。

 女性に言うのはどうかと思うけど、なんとも頼もしい背中だった。


 お互いに一歩も動かずしばらく睨み合うと、二人とも同時に見えないほどの速さで動き出した。


 がいんっ! きいんっ!


「マジか?」


 凄い打ち合いをしているようだが速すぎてよく分からん。

 何合もの打ち合いの剣撃音がして10秒もすると同じ場所に戻ってきた。


「はぁはぁ……」


「……くっ」


 戻ってきた二人は、長い戦いをしたかのように疲れ切っていた。

 なんか凄い戦いをしたみたいだけど見えなかったので説明も解説も出来ない。


「私の扱い酷くない?」


「そういうつもりではないんだけど……って人の心の声を読まないように」


「なにやってんだ!?」


 しばらくするとデルが遅れてくるようにやってきた。


「“マジックアロー”!」


「ちょ、ま、待て……」


 俺の言葉よりも先に、全身の紋様を白く浮かばせて魔法を唱えた。

 彼女の頭上に沢山の輝く魔法の矢が現れる。


「な、なんだそれは!?」


 それを見てさすがの勇者も驚きの声を上げる。

 だがすぐに冷静に盾に全身を隠した。さすが激戦をくぐり抜けてきただけあって対応力が高い。


「いけー!」


「やばいって!」


 さすがにやばいと叫んだが、勇者の持つ盾に当たったと思った瞬間光が弾けるように消えていった。

 それは数百本に及ぶ全ての魔法の矢が全てが同じく消失したのだった。


「なにそれ!? くっ……」


 デルはMP欠乏症でその場に座り込んでしまう。


 俺の方はディテクトで調べる。


 盾(アンチマジックシールド)+6

 帰属者:勇者、中田夏雄

 材質 :金属

 制作 :妖精王国


【ウルトラスーパーレアクラス級の盾で日に1度だけLv2以下の魔法を全て無効にする】


 マジか!? そんなの装備していたのかよ。それにしてもウルトラスーパーレアってカテゴリーはなんなんだよ……。


「……なんて魔法使いなんだ。でももしあの酸の魔法だったらやばかった」


 勇者は中田夏雄って名前なのか。じゃなくていや今はどうでも良いだろ。


「そうか強力すぎて他の魔法だと仲間を巻き込むからか」


 考察力も今まで出会った勇者の中で最もまともだった。


「はあ! “スマッシュ”!」


 勇者が油断している瞬間を見逃さずアティウラがお得意の剣技スマッシュで攻撃に踏み込んだ。


「っ!? “パーフェクトディフェンス”!」


 普通では避けきれないと思った勇者中田は剣技を使って盾で完全に防いだ。


「ちっ!」


 アティウラが舌打ちをすると不敵な笑みを浮かべる勇者。


「なーんて……“スピードアタック”!」


「連続使用!?」


 剣技には色々と制約がある。まずクールタイムが存在し同じ技は連続使用出来ない。違う技であれば持ちスキルの数とMPが許す限り使える。

 だが現実には体力とMPの両方をかなり消耗するため、そう何度も連続して使えるものではない。


 だがアティウラはMPの方は俺が与えている分がありアマゾネスという人間よりも強靱で頑丈な造りをしているためこんな力業が使えるのだった。

 とはいえ、後で筋肉痛になって大変な事になると思うけど。


 物凄い連続攻撃に勇者は盾で防ごうとするが速度に追いつけない。


「“ディザーム”!」


 苦し紛れに勇者は武器落としの剣技を使うが不発に終わる。


 がいんっ!! 剣と斧槍がぶつかり合い激しい金属音がした。


「あ、ああああ!?」


 アティウラの悲鳴のような声がこだまする。

 なんと、彼女の武器の斧の部分が大きく欠けてしまったのだ。


「な、なんてことを……」


「なんて馬鹿力なんだ」


 その衝撃で勇者の手も痺れたらしく剣を落としていた。

 さすがにコモン武器と伝説級の武器が正面からぶつかり合ったらアティウラの方が圧倒的に不利であった。


「何事じゃい!」


「勇者様!」


「……これは一体?」


 そこへ勇者の仲間達がやってきた。

 彼らは手際よく、ドワーフが割って入り勇者を護るように立ち、エルフと女神官は何時でも出来る様に後方で構えている。


「……主様、これピンチかも」


「これはどういうことじゃ? 事と次第によっては、例えそちらも勇者が居たとしても容赦はせんぞ」


「これは心外、そっちが先だったんだけど」


 刃先が割れた斧槍よりも更に大きな刃が付いた戦斧を構えたドワーフの凄みに全く動じないアティウラ。


「謀らないでください! どうして勇者様が……えっとそっちの勇者様を攻撃するんですか!」


 女神官が後ろから怒鳴るように言ってきた。


「そのままそちらにお返しする。ウチの主は丸腰なのに何故剣を抜いた」


 ドワーフや女神官がアティウラ越しに俺を見る。

 どう見ても小坊か中坊くらいのガキが華奢な杖を一つ持っているだけである。


「これはどうしたことかの……」


「二人とも戯れ言に惑わされてはいけません。彼らはあのダンジョンのボス相手に赤子の手を捻るかのように扱ったのですよ」


「むっ……そうじゃったな」


 困惑するドワーフと女神官はエルフの一言で気を引き締め戦斧を構えなおした。


 まずいな……。このままだと戦いになってしまう。

 周りを見るがデルは動こうとしているが回復していないため辛そうだった。


 アティウラも勇者とドワーフの2人を同時に相手をするのは厳しそうだし……。


 仕方がない。この場はなんとか逃げて仕切り直そう。

 だが、どうすればいい? 今の俺に出来そうなこと……あ、そうだ。この杖に仕込まれている魔法を使ってみるか。


 実験もしていないが、なんとかいけるかもしれない。

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