新たに歩き始める4人

新たに歩き始める4人<Ⅰ>

 というサブタイなのに、実はまだダンジョンの側にいたりする。


「ああもう、仕方がない聖女様相手に商売は難しい! 持ってけ!」


「ありがとうございます!」


 いざ出発というときに商店も移動により在庫一掃セールを始めたため、3人の女性陣は脚を止めて買い物に勤しんでいた。


「女性の買い物熱は何処に行っても変わらないものなんだな」


 特にこの世界の女性はアクセサリが凄く好きである。

 聖職者であるセレーネでも指輪や腕輪、ネックレスにピアスなどしているし、デルに至っては耳にピアスを複数付けているし。まあ、そういう文化なのだろう。


 俺の方はその間、少し離れた草原に座って拾った杖と貰った杖を調べていた。


【unknown】


「やっぱりダメか」


 先日の光線銃と同じくゴーレムを生成した杖も全く調べられない。

 おそらく予想ではあるが、これを使ってダンジョンの各種ゴーレムを造っていたと思われる。


「なるほどそれで見つかるとまずいからダンジョンを自爆させて地中に埋めるようになっていたんだな」


 ある意味余計なことをしたわけだ。


「ここにもちゃんとした教会があればよかったんだが」


 残念ながら簡易教会というもので凄く簡素な造りで複数の神様を一度に奉るものしかなく、それだとアクセスが出来なかった。


「仕方がない。この杖は王都に着いてから直接聞くことにしよう」


 今度もう一つの杖を詳しく調べてみる。

 技名だけで詳しい使い方などは書いていない。


「ええい、頭にきた。“アナライズ”!」


【analyze..........】


「お、いけるか?」


【....complete】


「いけたのか?」


・杖(スタッフ)+1

 帰属者:未

 材質 :合金

 制作 :魔導国家/魔導師シュルツメルツ


【この杖は魔導師シュルツメルツが作成した試験魔術を封入した杖である】


 へぇ、そういう杖なんてあるのか。


 そして3つの魔術の詳細が見つかった。って、なんだこれ……確かに変態的な感じだな。こんなの使えるのか?


「こんなところにいたのか」


「え」


 声を掛けられ、そちらを見るとあの勇者が居た。


「あ、どう……も?」


 笑顔でこちらに寄ってくるが、なんとも言えない怖い雰囲気を感じる。


 いや、これはマジでやばい。彼はどうするつもりなんだ? 身構えると勇者は黙って腰の長剣を抜いた。


「……ど、どういうつもりなんだ」


「少し聞きたいことがあるんだ」


 なんだそれ……いずれにせよそんなことに付き合うつもりはない。

 つもりはないが、逃げられる気がしない。


「君は女神に魔王を倒してくれるように頼まれてここに来たのだろう?」


「それは……」


 この状況で、実は女神なんていなくて宇宙人が管理しているなんてネタバレした挙げ句に地上に落とされたなんて本当のことを言ったところで、こいつは理解してくれないだろう。


 もっとはっきり言えば、もう俺なんて出涸らしみたいなもんだろ。

 勇者と呼ばれる地球人は既に沢山いて、みんなが魔王討伐目指しているんだからな。


「どうなんだ? それだけの力がありながら君は一体どういうつもりなんだ。まさか得た力に溺れて別のことを考えているんじゃないのか」


 完全に女神様とやらの信奉者になっているんだな。全くあんなのただのAIみたいなもんなのに……鰯の頭も信心からとは言った物だな。


 普段宗教とちょっと距離のある日本人てのは、一度信じられるモノに出会うと反転したかのように狂信者になるから質が悪い。特に彼の様な真面目なヤツほど深くはまりやすいんだよな。


「まあ、ぼちぼちやっていくつもりだよ」


「……ふざけるな! 強者気取りか!」


「俺の方が強いと思っているのなら大きな間違いだ。所詮少しばかり他よりも目が良いって程度の力しかないし、後は普通の人間となにも変わらない」


 むしろこの世界の標準的な人間よりも肉体的には劣っている気はするが。

 ましてや君等のように伝説の武器でステータスも底上げして貰っていないからマジで弱い。


「嘘だ」


 こりゃダメだな。どう話しても聞いてはくれなさそうだ。

 目つきが鋭くなり、剣を俺に向けて構え始めた。


「いいのか。勇者同士が戦って倒せば、プレイヤーキラーとなるんだろ」


「信念のためだ」


 うわぁ……本物の狂信者かよ。やっとまともな勇者に出会えたと思ったんだけどな。やっぱりどこかおかしい人物だった。


 もしかして俺もネタバレせずにここに降りたらこんな風になっていたんだろうか。まさかな……まさかね。


 ……正直少し自信がない。ここまでとは言わないけど変に意識持って魔王を討ち滅ぼすとか言ってそう。

 あー……、そういう意味で真面目な彼を憐れんでしまう。


 本当に困ったな。どうすればこの場を乗り切れるだろうか。


 俺にとってこの勇者のようないわゆる脳筋系剣士が最も相手にしたくない存在である。

 得意の検索系や魔導柱を落とすとか全く意味を成さないからだ。


「……そうか、その無言が君の答えか」


 やば!?


 勇者が片手剣を上段に構える。そして問答無用で振り下ろされた。


 ざーっ、……がいんっ!

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