戦いを終えて

戦いを終えて<Ⅰ>

「怪我人の方は、ここからここの空間に集まってください」


 戦いがほぼ終わった段階で、セレーネが怪我人などを集めていた。


「……“エリアヒール”!」


 今し方の戦いでレベルアップした彼女は新たな力を得たそうで、個人にでなく団体を回復する奇跡を使った。


 これは10m四方の回復するフィールドを作りあげ、その中に居る生物の怪我を治療するといったものだという。


 通常の回復よりも即効性は低く徐々に回復するのでしばらく中に入っていないといけないが、一度に複数の怪我人を回復させられるので数が多いときは非常に便利である。

 日に一度しか使えないがMPが許す限り発生させておくことが可能のため俺が渡しているMPを使えばかなりの時間回復が可能である。


 フィールド内には結構重傷者がところ狭しに並んで寝かされている。壊死や切断、致命傷などは回復不可能だが骨折や組織さえ残っていれば大概は治せるようである。ただあくまでも彼女のMPが尽きるまでに回復出来ればだが。


 俺の方はダンジョン内に残された人が居ないかサーチで探す。

 ちなみに先ほどの杖はこっそり雑嚢に仕舞っておいた。こんなものが誰かの手に渡ったら大変な事になるしね。

 どれほどの土塊人形が出せるかは分からないが、場合によっては一つの街とか滅ぼせそうである。


「どう、何か分かる?」


「ダンジョンは内部で爆発してほぼ原型を留めていない」


「そうなんだ……それってやっぱり」


「ああ、残念だがダンジョン内の財宝とかは諦めた方が良さそう」


「セレーネが聞いたらすっごいガッカリしそう」


「少し考えが甘かった。入口さえ閉めておけば外部から入ってくると考えもしなかったし……そのせいで怪我人も沢山出したし」


 がっくりと肩を下げる俺の背中にデルは手を置いて慰めるように擦ってくれる。


「それとこれとは別じゃない。あんたがそうしようとしなかろうと賊は現れて余計なことをしたわけだし」


 機能は確実に奪っていたんだから、警報とかをリンクさせておけばよかった。


「それにほら、中に入っているときにこうならなくてよかったじゃない。4人とも無事なんだし、すぐに稼げるって」


 これの犯人は彼奴らであろう。

 地面から謎のアイテムを使って出て来た謎の集団。


「そういった攻略直後のダンジョンを狙う連中が居るって本で読んだことあるよ」


 デルの言葉通りのそういった集団なのだろうが、彼奴らの持ち物はおそらくこの前の光線銃やこの杖と同じ宇宙人クラフトだと思われる。しかも複数所持している様子。

 あれらは伝説の武器みたいな帰属もなく制限もほとんどないため非常に強力で危険だ。


 一番偉そうなのが“サリサマ”とか名乗っていたが……。

 いずれにせよ厄介そうな集団だなと思わずにはいられない。


「それにしても……」


 ダンジョンを基点とした小さな町は建物などは爆発に巻き込まれたりゴーレムに破壊されたりで壊滅的なダメージを負ったが、唯一死者だけは出なかったのが不幸中の幸いと言えた。


「いいんじゃない。どうせ近いうちにみんな出て行くって話だったんだし。少し前倒しになるだけでしょ」


「今回は破壊とかなく終えたと思ったんだけどな」


「僕は何もしていないからね」


 前回家を破壊したのを気にしているのか。デルは少し唇を尖らせながらなにもしてないと主張する。


「分かってるって」


「ふわぁぁ……、それにしてもさすがに疲れたよ」


 デルが手で口元を抑えながらあくびをする。

 よく見ると、そろそろ空が白み始めていた。


「本当だ。眠くもなるわけだ」


 そりゃそうだ。俺とデルは歩いてここまで辿り着いてダンジョンに入って戻ってきたらゴーレムと戦わされて。あ、いや俺は戦っていないけど。


 しかし大きな課題が見えてしまった。隠れた相手を探すとか不意打ちなどは得意だが、防衛側になると俺個人では何も出来ない。今回のような事態になると完全にお荷物でしかない。


 せめて直接的じゃないにしても攻撃や防御方を手に入れないと、3人の負担ばかり増やしてしまいそうだ。


「そろそろ寝よっか……」


 セレーネを手伝っていたアティウラが眠そうにフラフラとやってきた。

 怪我人の方は新スキルのおかげで問題ないところまで回復出来たらしい。


 幸いなことに自分達の借りた宿は被害がほとんどなく寝ることが出来た。


「わたくしもさすがに少し疲れました」


「あ、俺ちょっとだけ寄るところがあるから、先に戻って寝ててよ」


 どうしても気になることがあった。


「そう……ですか? 無理なことは絶対にしてはいけませんよ」


「ちょっと気になることがあるだけだから危ないところにはいかないし、直ぐに戻るから」


 何時もであれば付いてきたがるセレーネだが、さすがに疲れがピークらしく3人は先に宿に戻っていった。

 彼女達が行くのを確認して俺は例の道具屋に行くのだった。

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