かんぱー……<Ⅱ>

 ぎゅいーんっ!


 ん……? なんだ。なんか懐かしい音がするような……なんの音だっけ……。


 ぎゅいーんっ! ぎゅいいいいーんっ!


 ああ、そうだ。掃除機の音だ……、って掃除機の音!?


 ごと……、ごごご……、ぎゅいーんっ!


「な、なにごとでしょう!?」


 セレーネも気付いて音の方を見ると地面に穴が開き始めた。


「うぇ……ぺぺ、土が少し口に入ったぞ……ぺっぺ……あ、でもほら、外に出られたぞ!」


「危なかった。今回ばかりは肝を本気で冷やしましたよ」


「そうだろ。そうだろ! サリ様はピンチに強いのだよ」


「いや、あんたがそもそもピンチにしたんでしょうが……」


 地面に穴が空くとそこから見馴れぬ集団が出て来た。最初に出て来た女性は、面積の少ない衣服に大きなマント、まるで特撮に出て来そうなセクシー女幹部の様な格好をしていた。

 もう一人は魔術師のような格好でこの世界としては比較的普通だが、耳が細長く結構華奢な体格はもしかしてエルフだろうか。


 だがその後に続いて出て来たのは……黒の全身タイツに白い仮面、えっ、どっかの悪の戦闘員?


「ん……って、ここはダンジョンの直ぐ側じゃ無いですか!?」


「あっれー? 真っ直ぐ登ってきたはずなのに戻ってきちゃったぞ」


「だから言ったんですよ! 少し曲がっているって!」


 こちらのことなど気にも掛けていないのか。延々話が続いていた。


「すぅ……こっちにも敵が現れました!!」


 呆れて見ていた俺の代わりにセレーネが大声で周りに知らせた。

 って、そうか此奴らがダンジョンの侵入者か! 相手のボケに思わず思考が引っ張られてしまった。


「ああ、しぃまったぁ!! 見つかったぞ!」


「そりゃそうでしょ」


「ん……何処かで見たような……あーっ、貴様は、あのときの勇者!!」


 女幹部は俺の顔を見るやいなや、指を差して大声で叫んだ。


「え……ど、どなた?」


 人違いかもしれないが、少なくとも俺にこんな奇天烈な格好をした知り合いはいない。

 確かに顔は結構美人でおっぱいも大きいので知り合いになるのはやぶさか……ではあるな。うん、なんかヤバそうだしノーサンクスとしよう。


「忘れたとは言わせないぞ! お前のせいでサリ様は数々の苦労をさせられたのだ!」


「そうなの? えーっと……サリ様のことは全然思い当たる節が無いんだけど」


「え、あ……」


 サリ様と名乗った女幹部は俺の言葉で何か思い出したようで急に真顔になった。


「って、このバカ! 我々が名乗ってどうするんですか!」


「バカって言う方が……ああ、しぃまったぁ!! 相手の姑息な手につい乗せられてしまったのだ!」


 いつ俺が姑息な手を打ったんだろうか。

 それともこれは一種の芸とかなのか? それだとしたら結構レベルの高い芸だな。


「うおおおおおおーっ! おりゃあ!!」


 などと変な問答をしている間に、俺様男がどこからともなく声を張り上げながら変な集団に飛び込んでいく。

 黙っていけば一応の奇襲になると思うんだけど……。


「え、ちょ!? うわぁあ!? 不意打ちは卑怯だぞ!!」


 きいぃん!


 ビビった女幹部サリ様と俺様男の間に割って入った全身黒タイツが腰から抜いた棒状のもので剣を受け止めた。


「ふ、ふははは! その程度、戦闘員さんの敵では無いのだ!」


 その割には大分顔は焦っているようですが。


「そうか、それなら我らも加勢しよう」


 そこに新たなにダンジョンを攻略した勇者の一行が現れた。


「サリ様、あの者達は手練れです。まともに戦うとこちらが不利です」


「そ、そうなの?」


 長耳の魔術師は懐から何かを取り出す。なんだそれ……銃?


「ええ、ですからここは……」


 銃を天に向けるとニヤリと不敵な笑みをした。

 何事かと勇者一行は身構える。


「逃げますっ!」


 ぱんっ!


 軽い音がしたと思ったら全身タイツ達は脱兎の如く全員バラバラの方向に逃げ出し、長耳は姿を消していった。


「くそ! 逃がすか!」


 虚を突かれた勇者はまさに二兎を追う者は一兎をも得ず。全身タイツの誰かを追おうして出遅れる。

 なんとか一番近い奴を追いかけようとするが、ぱんっ、と軽い音がして光り輝く弾丸が全身タイツに当たるとそいつも姿形を消していく。


「どういうことだ!?」


 まずい! ここで逃がしたらと慌てて俺もサーチで消えた連中を索敵する……どういうことだ? 全く捉えることが出来ない……。そうしている間に全員が消えてしまう。


「え、ちょ、ちょー!? なんでサリ様を置いていくんだよぉ!」


 だが女幹部だけは棒立ちになったままそこにいた。


「え、えー……もしかして忘れられてたのか?」


「……え、あ! と、捕らえろ!」


「うそっ!? ちょ、きゃあ! きゃあ! くんな、こっちくんな!」


 一瞬呆気にとられていた勇者とドワーフが女幹部の方に走っていくと女幹部は驚いて、牽制でもしたつもりなのか手に持っている杖をぶんぶん振り回す。


 すると杖が輝き、地面がもこもこと盛り上がった。

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