しみじみと
しみじみと
「ここも最後だな」
ダンジョンを管理し、ラスボス役を務めていた彼らは最後にとボス部屋に来てしみじみと思い出に耽っていた。
「色々とあったな」
「5年位前、最初にここまで辿り着いたパーティが居ただろ」
「ああ、あの子達は強かったよな」
「でも、焦りすぎて初台詞で思い切り噛んだもんな」
「やめて恥ずかしい!」
「危うく直ぐに攻略されるって焦ったけど結局金銭問題だっけ? それで解散して攻略止めたんだよな」
「そう言われているけど、あそこ女の子が2人いたろ。どうやら両方とも同時期に懐妊したらしいんだ」
「そうだったのか」
「しかも父親はどっちも同じで誰だったと思う?」
「あの中心に居た剣士じゃないのか」
「それが、後ろに居た魔術師らしいんだよ」
「うわ!? まじか……あの女の子と剣士は仲良かったじゃないか」
「もちろん、そうだったんだがちょこっと浮気したら一発で当たっちまったらしいんだ」
「なんかすげえ話が出て来たな」
ぎゅいーんっ!
などと思い出話に花を咲かしていると天井の方から何か聞き慣れない音がした。
「なんだ?」
「何かヤバい気がするな……みんな隠れろ!」
さすが20年もの間裏方に徹していただけあり、異変に気が付くと直ぐさま行動に移り直ぐさま隠れた。
「よいしょっと……おー、さすがにここは広いね」
ボスの間にまで辿り着いたサリはいの一番に降りてきた。
モンスターが出ないことですっかり警戒心がなくなっていて戦闘員やアッキーまでもそれが伝播していて、玉座の裏に隠れた元ボス役達の存在に全く気づくことはなかった。
「それでこの下に穴を開ければいいの?」
「そうですね。大体この辺りの下が一般的らしいので」
「よし、吸引力の減らない唯一の武器でなんでも吸い取るぞ~!」
ぎゅいーんっ!
ボス部屋の中央辺りで床に穴を開けていくと更なる地下が露出した。
「本当だ。下があった……ってこれなに?」
「これがこの迷宮の心臓部にあたる魔導機です」
一団はそこへと降りると幾つかのよく分からない装置が置いてあった。ぱっと見は大きな花瓶のような形状をしているが、その上には大きな輝く石が浮かび上がっている。
それぞれの装置からは沢山のパイプのようなもので伸びており、それぞれが繋がっているらしい。あまりにもパイプが多いためどこに何が繋がっているかは分からない。
装置の一つにフラスコのような透明な容器があり、中には液体が充填されていた。よく見ると小さな何かが動いているのが見える。
「なんか気持ち悪いかも……」
アッキーはその中で一際大きな装置の前に行く。
「これがメインジェネレーターか。それであっちが迷宮の壁や床などを修復する装置で、サリ様が見ているのがゴーレムなどの素体を精製する装置です」
さらにアッキーの近くには光に包まれるように杖が浮かんでいる装置らしき物があった。
「この杖が素体を実際のゴーレムにするのでしょう……凄いっ! ここまでの装置を無傷で見つけられるなんて、サリ様これは大金星ですよ!」
「そうかそうか! はっはっはー! さすがサリ様だー!」
嬉しそうなサリ、ここまで順調なミッションは初めてであった。
「あ、そうだ、この杖は回収しておこう」
何も考えずに光に包まれて浮かび上がる杖を引っこ抜くサリ。
「な!? 何があったらどうするんですか!」
「大丈夫だったもん」
「全く……なにも分からないなら余計なことはしないでください。それでこっちの装置が……ああ、これか……」
アッキーはサリに釘を刺して施設全体の把握を始める。
「むうっ……サリ様だって少しくらい分かるんだぞ。おお、なんか、でけえ玉だな。これも持って帰っちゃうか……」
「そしてここがこうなって……あっちがあれで……」
全く言うことを聞かないサリ様は余計なことを続けるのだった。
「よっ……、お? なんだこれ……すげえがっちりくっついてる……ぐ、ぐぬぬぬぬ……うおうりゃあ!!」
すぽんっ!
「ふう、引っこ抜けたぞ。この玉は一体なんなのだ?」
「そしてここで全てを制御するわけですね……あれ? ここに宝玉があるはずなんですが……」
「それならここにあるぞ」
サリがそう言って赤みがかった水晶玉を差し出す。
「ああ、そうでしたか……って、えええええ!?」
『緊急事態発生! 緊急事態発生! 中央制御システムが喪失しました。補助システム起動、マニュアルに従いこのダンジョンを放棄します』
「ちょー!? あんた何してんだー!!」
「いや、なんか高そうだしお土産にしようかなと」
「馬鹿ー! 大バカー!!」
「な!? 馬鹿って言う方がバカなんだぞ!」
『自己防衛シークエンスに入ります。全てのゴーレムを施設外に排出、その後自爆シークエンスに移ります。施設内の関係者は脱出プログラムに従い行動を始めてください』
「わーわー!! どうしてくれるんだ!」
「えっと……、戻します……」
ばりんっ!
サリは元の場所に戻そうと元の場所に置くが、玉は外れてぼろんと床に落ちると割れてしまう。さすがの戦闘員達もギョッとして驚いて動揺し始める。
「って壊すなし! ああもう! この馬鹿上司!」
それまで冷静だったさすがのアッキーも感情剥き出しに怒り出すと、サリは泣きそうな顔になった。
「あう……そんなに怒んなくても、ごめんなさい」
「はぁ……悪いのはサリ様なのに、なんでここで私がの方が悪者みたいな流れになるんでしょうかね」
少しだけ冷静になると戦闘員に集まるように手で合図を出す。
「こうなっては仕方がありません、それぞれ手に持てそうな分だけでも回収して直ぐに脱出します。急げ!」
全員慌てて適当なモノを手に持って脱出を計る。
「えっと、アッキーどうやって逃げるの?」
「あ……」
入るときは降りで早かったが、戻りは登りとなる。
ロープなどで一階層ずつ登っていたらおそらく間に合わない。
「!?!?!?」
戦闘員がさすがにざわつきだす。
「ど、ど、ど、どうしよう!?」
さすがのアッキーも手がないと慌てだした。
「サリ様に任せるのだ!」
「え?」
「?」
サリのその一言に全員の動きが止まるのだった。
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