そしてダンジョンへ<Ⅱ>
「この! この! どうだ! お前等如き俺の敵じゃないんだよっ!!」
存外脆く簡単に戦闘不能に出来ているはずだが、俺様男は興奮しすぎているのか既に骨の塊になっているところにしつこく剣を振って更に壊していく。
「我が手に集まりし、猛狂う炎よ、激しき凶弾となって我が敵を撃て! “ファイアーショット”!」
バチッ!! がしゃんっ!
魔術師の手の平に炎の玉が現れると、それは一直線に飛んでっ破裂しすると骨人形を破壊した。
おいおい、こんなところで大事なMPを消費していいのかよ。
この程度の敵なら前衛だけでも十分に戦えそうなのに、どういう判断基準なのか魔術師が魔法で応戦しだした。
「死ね! 死ね! 死にやがれ!」
おおよその戦いが終わっても自分の強さを誇示したいのか既に動かない物体を蹴り続けている俺様男。
「それはもうただの塊よ」
「ははっ! ぺっ!」
女戦士にそう言われてやっと蹴るのを止めて最後に唾を吐きかける。
サーチに敵らしきものは引っ掛からないが、一応目視で周りを見る。
すると盗賊が何かを拾い集めている。
それは俺の足元にも落ちていて、拾ってみるとそれは骨の欠片だった。
「おいっ! それを寄越せ!」
普段はバンダナの奥に隠れている鋭い目つきをしながら俺の手にある骨の欠片を奪おうとする。
「お前達は戦いに参加していないのだから、それを貰う資格はない!」
これが何かということに興味はあるが、これ自体には全く興味がないので放り投げて渡す。
「てめ! これは大事な素材でそれなりの金額で買い取って貰えるんだぞ! なくなったらどうするんだ!」
そういうものなのか。なるほどだから冒険者達がダンジョンに集まるのか。
財宝が見つからなくてもモンスターを倒して出た素材を買い取ってもらえればそれなりの稼ぎになる。特に今回は試験で報酬は出ないから細かくても集めたくなるわけだ。
「どうよ! 見たか俺のハイパー攻撃!」
一応見てはいたけど、どれがハイパー攻撃なるものかはさっぱり分かんなかったけどね。
「いいか。これが本物の魔術だ!」
テンションが上がったまま興奮しながら俺に言う俺様男に、自身の魔法に酔いしれて自慢げに語る魔術師。
そして素材を拾うことにしか興味の無い盗賊。ってよく考えたらお前だって戦いに参加してなくね?
「そろそろ前に進まないか」
そんな中で唯一、戦士の彼女だけは少し冷静なようではある。
新米パーティなんてこんなものなんだろうか。だとしてもまとまりがなさ過ぎる。そもそもリーダーは一体誰なんだ?
『此奴ら戦闘が終わった後の周囲警戒もしないんだけど。いくら一番浅い階層だからって残っているのが出てくるかもしれないのに』
デルが念話で怒っていらっしゃる。
(一応、今のところ敵の反応はないよ)
ため息を漏らすデル。
まあ結構危険なところで暮らしていたから、こういう緩さは許せないんだろう。
結局盗賊が素材を拾い終わるまで、どうだ俺は強いだろとばかりにドヤ顔をしている俺様男だった。
戦闘が終わって10分ほど経ってやっと隊列を整えて前に進む。
部屋から出て通路を歩く。最初こそ凄く警戒していた盗賊だったがもう罠の心配がなくなったのか。素材の数をずっと数えながら歩いている。
結構な距離を歩いているが最初の交戦以外モンスターはエンカウントしていない。
どうやらこのダンジョン、いやこの階層と言うべきか。モンスターは部屋で区切ったような場所にしか沸かないみたいだ。
長い道だななと思っていた矢先T字路が現れる。矢印は右を指しており、左側にはロープが張ってあるので誰が見ても右が正解なのだが……。
「なあ、実はこっちにお宝が隠してあったりしてな」
何を馬鹿な。こんな浅い階層なんて既に掘り尽くされているだろうに。
「……ふむ」
そう思っていたが、新米パーティは興味を持ってしまったらしい。
「あのさ、そういうのは試験が終わってから改めて行ってみればいいんじゃないかな」
「おやおや、もしかして僕ちゃんは怖いのかな?」
俺様男が馬鹿にするように言うと、他のメンツも笑い出す。
「確かに何か売れる物でも落ちているかもしれないな。分かった俺が少し見てくる」
「おい、いいのかよ」
止めようとするが、俺の声など聞こえてないのか盗賊の兄ちゃんはあっさりとロープを超えて奥に行ってしまう。
天井の照明は薄暗いためある程度離れると見えなくなる。マップを見る限りこの奥に袋小路の部屋があって明らかにヤバそうなんだけど……。
ったく……そのまましばらく待つが悲鳴などもなく静かなままだった。もしかして罠にでも引っ掛かったか?
様子を見るだけのはずだが5分経っても盗賊は戻ってこない。
残された3人は、明らかにソワソワしているが誰も動こうとはしなかった。
やっぱりこのパーティにはリーダーってのがいないんだな。
そこから更に5分程待っていると荒い息を必死で整えながら戻ってきた。
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