職業選択

職業選択

 と思ったら、まだ職業選択がまだだった。


「まあ僕は魔術師にしよう」


 デルは当然のごとく普通に魔法使いを選択した。


「そうですね。これだけの魔法が使えますし当然ですね」


「ごめんなさい」


「いえいえ、あれは試験官が煽ったのが悪いのですし、当ギルドとしても腕のいい魔術師は大歓迎ですから」


 謝るデルに受付のお姉さんはフォローしながらデルのステータスを書き換えた。


 名前:ヴェンデルガルト

 種族:紋様族(混血)(卯路睦久帰属)

 職業:魔術師/冒険者


 そして俺の方だが、勇者は天から降りてくるときに持っている武器で職業が決まるとのこと。当然専用武器を俺は持っていない。正確には紛失だけど……。


 元より戦士志望ではないが年齢もあるが筋力不足は否めないと言われる。済みません現代社会育ちのもやしっ子なもので。


 魔術師は魔法の杖を持つ勇者もしくはカレッジやどこぞの弟子など基礎が出来ている以外は基本的に受け付けられないとのこと。ある程度の知識が無いと一からは無理だそうだった。


 スカウトと呼ばれる、まあ盗賊と同じ感じの職業だが、これも聖女様のお連れとなると少々問題がと言われてしまう。

 他にもいくつかあり、弓を基本とするハンターや様々な楽器を演奏して詩を歌う吟遊詩人や知恵知識を扱う賢者などもある。


「賢者って攻撃魔法と回復魔法の両方使える万能選手じゃないのか?」


「勇者様の中にはそう仰る方がたびたびいらっしゃるようですが、残念ながらただの知識職です」


 受付のお姉さんは冷静に答えてくれる。やっぱり同じことを聞く奴がいるのね。


 戦士、魔術師、盗賊は無理だとして、吟遊詩人なんて洒落た職業が出来るとは思えないし、弓なども扱えるとは思えない。

 そうなると出来そうなのは賢者だが……。


「この職業の特徴はどんなことなんですか?」


「そうですね。学問の修得が出来ます」


「……そういう職業ですよね」


 さすがに端的すぎたと思ったのか。おほんと咳払いをして説明を続ける。


「特殊能力として戦う相手の弱点などを探ることが出来ます」


「……なるほど」


「さらに様々な言語の習得が可能です」


「……そうなんだ」


「さらに特典として各国の図書館などに入れて様々な知識を得ることが出来ます」


「……それだけ?」


 そこまで説明して困った笑顔のお姉さん。


「賢者は元々副職のようなもので半分引退の方が主に選ぶ職業なんです」


 あー、そういうことね。

 余生を研究や趣味に生きるってやつか。


「でも、なんだか勇者様のための職業みたいですよね」


 一緒に聞いていたセレーネがそういった。

 確かに俺には今言われたことを全て出来る。確かに図書館には行けないけど、でも図書館以上に凄いライブラリーにアクセスが可能だし。


 あ、でもそうか、賢者であればそういうことが出来るんだしコンソールとか出してもあまり怪しまれないかもしれない。


「あの、その後の転職は可能ですか?」


「それはもちろんです。むしろ勇者様の場合はポータルに行ったときにそこでもう一度話し合った方がよろしいかと思います」


 それならとりあえずいいか。


「じゃあ今回は賢者になろうと思います」


「分かりました。それではおめでとうございます。勇者様は“賢者”となりました」


 名前:卯路睦久

 称号:勇者

 職業:賢者/冒険者


 ステータスが、無職から賢者/冒険者へと変わった。

 やっと職業欄がまともな表示になってくれただけでも少し嬉しい。


「ありがとうございます」


 だが、まだ終わりではなかった。ここから最終試験というのがあるという。

 実地試験というやつで俺とデル、そして他の新人冒険者数名と共にクエストをクリアすることだった。

 それがこなせないとギルドとして信用出来ず仕事の斡旋は出来ないとのこと。


「別に仕事を斡旋して貰わなくても構わない気はするが……」


「お金が無くなったらどうするのよ」


 デルが結構現実的な話をしてきた。


「……それもそうか」


「主様ならモノ探しで儲かりそう」


「おおっ、確かに!」


 アティウラの余計な一言で、セレーネが目をキラーンと輝かせた。


「どっちにしても最終試験を受けないと、そういう仕事の斡旋もしてもらえないだろ」


「頑張りましょう!」


「いや、受けるのは俺とデルだけだから」


「探し物や人捜しなんて幾らでもありそうですし、貴族や商人相手ならお金取りたい放題でいけるでしょうし……、一回につき金貨100枚でもいけるかもしれませんね」


 おいっ聖女様、あんたがそんな俗物でいいのかよ。本当にお金が絡む話になると生き生きとするセレーネだった。


「あ、それなら職業も決まりましたし、それらしい格好の装備を買い揃えましょう」


「いやでもお金が……」


 セレーネがウキウキで提案してきたが、俺もデルもまともにお金を持っていない。


「大丈夫です。それくらいはわたくしが出します。お二人ならあっという間に元が取れるでしょうし」


 どうやら彼女の中で俺とデルがお金を作る算段が立っているらしい。なんかちょっとこういうときのセレーネって怖い。


 最終試験は個々ではない場所で行われ、手紙を持ってそこに行くように言われる。

 本来なら案内を出すところだが、セレーネとアティウラが知っているので任せるとのこと。


「ゴブリン倒せとかだと俺じゃ無理なんだけど」


「そういうときは僕が何とかしてあげるよ」


 そう言ってデルはダガーを取り出す。そっちでかい……いずれにせよ。なんとも頼もしい魔術師様だった。

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