壁の中、そこが本当の王都

壁の中、そこが本当の王都<Ⅰ>

 街の外壁まで辿り着く。結構な高さの石の壁が延々と続いている。


「凄えな、これだけ造るのにどれだけの時間がかかったんだろうな」


「10年以上掛かったと言われています」


 高さは5m以上はあるだろうか。風雨に晒され所々削られて隙間が見えたりひびが入っていたりと年季を感じさせる。

 昔の地球もそうだが、よくまあ重機もないのにここまでの巨大な構造物を造れるもんだよな。


「主様なら王都をどう攻める?」


 壁を見ていたら、すっかりお腹が満たされてしっかりとした足取りに戻ったアティウラがそんな疑問を投げてきた。さすが女戦士族、そう言った見方をしているのか。


「ここを? うーん、出来れば相手にしたくないかな。可能な限り話し合いで済ませたいところだね」


「なにか面白そうなことを考えてくれるって思ったのに」


 巨大な門が開いていて門番らしき人は立っているが、検問のようなことは行われておらず人々次々と行き来している。


「こんなに活気があって平和そうな場所を攻める理由が分からないだろ」


「なるほど」


 アティウラも門を行き交う人々を見て一応納得したらしい。


「夜になると問答無用で閉まってしまいますので急ぎますよ」


「おっと……」


 先頭のセレーネに従い少し早足に門をくぐり抜けると外側とはまた違う様相だった。

 外側は木造ばかりだったが、こちらは石とレンガ造りの家々が並んでいた。結構な建築技術があるのか3階建て以上の建物も多く見受けられる。


 外側でも道はある程度舗装されていたが、内側は排水溝と思われるものまであり舗装の程度が段違いだった。

 まさに中世ヨーロッパみたいだった。あ、いや実際にヨーロッパになんて行ったことはないけど。


 ここでも俺は完全におのぼりさんになっていた。と思ったらデルも同じだった。

 二人して街に入ってから物珍しさからキョロキョロしまくりっていると、馬車が引っ切りなしに動いていて轢かれそうになる。


「そっちは車道。この段差よりもこっちに居て」


 なんだと? この街にはちゃんと歩道と車道の区分けがあるのか。

 慌ててアティウラ達の居るところに戻る俺とデル。


「いやはや、申し訳ない」


「この街はそれだけ珍しいのですね」


 それでは付いてきてくださいとセレーネが先行して歩き始める。


 ここに来た目的は俺とデルを冒険者ギルドに登録することだった。

 俺はともかくデルは亜人の少数民族なので身分を証明する意味でも冒険者として登録しておくこと何かと便利であり、しかも協力している一部の宿屋等が割引になるのである。

 そこはさすがセレーネ、守銭奴は伊達じゃない。


 歩きながら行き交う人々を見ているとさほどの差は感じないが、武装している兵隊と思われる人の数が外と中の最大の違いだった。


 しばらく歩いていると少し生臭いさを感じ始めたら街中を通る大きな川に出た。

 川はゆっくりした流れで結構濁っているのは、おそらく生活排水を川に直接流しているのだろう。さほど気温は高くないのにツンとした刺激臭が漂っていた。


 そのまま綺麗なアーチの石橋を渡ると、また街並みが一変した。


「これはまた凄いな」


 それまではところ狭しと建物が敷き詰められるように建っていたが、こちら側は大きなお屋敷に広めの庭まで付いている建物が並んでいた。

 明らかに高級住宅街で、その通りの先にはお城と思われる建物も見えた。


「この辺りは諸侯の別宅とか騎士や官職の人達が住んでいます」


「なるほど、まさにこの国のハイソな方々のお住まいなわけですな」


 もう少し見たかったが、先ほどからこちらを気にしている衛兵と思われる人達に目を付けられると困るので、セレーネの案内に素直に付いていく。


 橋を渡って歩くこと10分ほど、川沿いの建物が密集している一画にある二階建ての小綺麗な建物で立ち止まった。

 入口には控えめな看板があり、そこには組合会館と書いてある。


「ここが冒険者ギルドってやつなの?」


 デルが少し怪しげに感じているらしい。


「ここは入会や退会、転職などの事務手続きをする場所なんです。斡旋や待合は川の向こう側にあります」


 だからか。どうりで人があまり居ないわけだ。


「元々ここが本拠で全て揃っていたのですけど『小汚いのがこの辺りをウロウロされては景観を損ねる』などと言って機能の一部を南側に移転させられたのです」


「……そういうことね」


 セレーネの説明に納得した様子のデル。

 それじゃあと中に入ると、そこは外観と同様に小綺麗な内装であった。


「いらっしゃい……あら、セレーネさんにアティウラさんとは珍しい組み合わせですね」


 セレーネのことを珍しく“聖女”でなく名前で呼ぶ職員と思われる綺麗な女性が出迎えてくれた。


「本日はどのような御用向きでしょうか」


「このお二人を冒険者として登録していただきたいのです」

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