長閑な夜
長閑な夜
「うーん、星がよく見えるぜ。建物が全部なくなればそれもそうか」
言うほど建物が多い場所ではないが、そう言いたくなっただけ。
サウナから出る頃にはすっかり真っ暗になり、俺は卿御洲達に寝わらを渡しに爆心地の方に来ていた。
家を破壊された村人達は被害のなかった親戚の家などに厄介になるとのこと。
旦那様の親族たちは被害をなんとか逃れた作業小屋や旧家などでしばらく暮らすらしいが、なかなか恨みがましい目線が痛い。
セレーネの方は教会で村人を集めて今回の説明やこれからの話をしている。
破壊した当人のデルは、最初こそ大変なことをしたとしおらしかったが相手があまりにもしつこいので、今は開き直って命は助かったんだからそんなもの立て直せば良いじゃんと言い切っていた。
紋様族はそうやっていつも落ち延びてきたんだもんな。
確かに命あっての人生である。簡単には割り切れないかもしれないけど死なずにすんだんだからそれだけでも良かったと受け入れるべきかもしれない。
俺達の寝床はアティウラの提案で一昨日と同様にあばら屋を貸してもらい、テントを張ったその中でシェルターを展開するようにした。
これならば少々狭かろうとテントの中で寝ているように見えるのでシェルターの存在を隠せる。
セレーネが居たので、いくらでも貸してくれそうなものだが俺やデルを恨んでいる村人もいるので寝込みを襲われないための処置だという。
それに下手に部屋を間借りするよりもシェルターで寝た方が快適なのもあるしね。
「ううう……さ、寒……さむい……」
卿御洲達は夜の寒さにお互いの身を寄せていた。
ちなみに縛り上げているため、あまり身動きは出来ない。
「ほらよ。これを使え」
「え……」
適当に寝藁をかけるとオークは器用に下に敷き詰める。
「あ、ありがてぇ……」
「下が寒くないだけでも大分違うな」
ノールが寝藁の上に乗って安心したように言う。
さすがにこの寒空の下に放置しておくのは可哀想かと思うが建物が減ってしまったので此奴らに宛がうことが出来ない。
それに一応罪人なのでこれくらいの扱いは許されるだろう。なにせウンコ投げてきたからな。
「じゃあ、また明日朝にな」
そう言って俺はきびすを返す。
「あ、あの……ぼ、僕はともかく……、彼らだけは……に、逃がせないかな?」
後ろを向いたときに卿御洲がそう話しかけてきた。
「それを決めるのは俺じゃなくて、この村の人達だろ」
「ぐがーぐがー」
直ぐ近くでトロルがグーグーと大きな寝息を立てている。
このまま倒しても良かったんだが、一応売れるらしく村の復興に充てるとのことで魔法でずっと眠らされている。
「運が良ければ見世物として生きていけるかもしれないけど」
朝になったら処刑されるだろうとのこと。
この辺りはセレーネが信仰していて俺をこの星に連れてきたあの女神よりも、人間以外には排他的な神の信仰が強いらしく、亜人や獣人を見下し魔物は必ず討伐対象という土地柄らしい。
「そんな……」
シュンとなる卿御洲。
「仕方がないだろ。しかけてきたのはお前達の方なんだから」
「ち、違……ぼ、僕は、ここが、お、女戦士族のキャンプだと思って……」
「なんだそれ。人間の村じゃなくて女戦士族だったら何をしてもいいってことか」
思い違いも甚だしい。百歩譲って敵対的な相手や害をなす魔物の村ならまだしも、人間の村だろうが女戦士族の里だろうが襲って命を奪う行為になんの差があるというんだ。
「いいからお前は大人しくあの騎士達に連行されて同輩の勇者達に裁かれろ」
「……く、くそ! なんで、なんでお前ばかり……ぼ、僕だって、お前みたいに……」
俺みたいに女の子に囲まれたかったって?
「確かに全く望んでいないとは言わないが、だからってアンタみたいに変な道具に頼ってまで女の子を手に入れようなんて思わないさ」
「……うぐっ、ぐ……」
そこでどうして泣き出すんだよ。さすがにそれはみっともないだろ。
気持ちは分からなくもないが、だからと言って彼のしたことは許されない。
「僕はただ……、一人が嫌だっただけなのに……」
まるで自分だけ孤独にされているみたいな発言をし始めた。
「はあ……」
彼は気付いていないらしい。もう既に自分が孤独ではないってことに。
「大将、こんなヤツと話をしていても辛くなるだけですぜ」
「そうっすよ。おい、アンタ! 俺っち達はもう覚悟が出来ているんだ! これ以上余計なことは言うんじゃねえよ!」
「それは悪かったな」
卿御洲。アンタは明日此奴らを失ってやっと気付くのか?
だが俺は何も言わずにその場を去った。
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