どうしても身体が先に動く勇者様<Ⅳ>

「よしっ! 今こそ我らのトライアングルフォーメーションをお見舞いするのだ!」


 何故か、こんなタイミングで3バカがやってきた。


「あ、あれはなんだ!?」


 デルの頭の上に巨大な炎の玉に3バカも気付いたらしい。


 ……いやこれはもう玉って大きさじゃねーな。球体はデルの身長くらいあり中ではマグマのような炎がぐるぐると蠢いているのが見える。もうなんというか小さな太陽みたいだ。


「うがぁあ!!」


 真っ直ぐに向かってくるトロル。


「行っけぇえ!!」


 そこへ巨大な火球を飛ばすデル。


「うぐっ!?」


 さすがの鈍感野郎も、それが危険なものだと本能で察知したのか変な声を上げて立ち止まったが既に時遅し。

 火球はトロルの胸の辺りに直撃すると目を開けられないほどの強烈な光が放たれ、その数瞬後に巨大な炸裂音がする。


 いや、しているはずだが強烈な光と轟音に視覚も聴覚も麻痺させられたのか、ただ真っ白で無音の世界だけになった。

 強烈な爆風が何度も発生し、爆発は一度だけでなく何度も起きているのが分かった。


 確かファイアーボールはあくまでも相手を燃やす魔法であり爆発系ではない。


 だがあまりにも火球が大きすぎて中心部の温度が非常に高くなっていたところに破裂して酸素を一気に吸い込んだことで爆発的な燃焼が起きたって感じか。


 もはや爆心地となったトロルがどうなっているのかは強烈な光と炎で全く見えない。


 物凄い熱波と衝撃波が襲ってくるが、予めセレーネが張っていた障壁とシールドリングのおかげでなんとか耐えていた。

 時間にしておそらく30秒も経っていないだろうが、そのあまりの激しい光と音でとても長く感じた。


 やっと強烈な閃光がおさまるが目や耳が一時的に麻痺したのか、あまりよく聞こえず、そしてなんだか前が暗いままだった。


 ぽよんっ。


 手の先に何か柔らかいものが……。


「こ、こらぁ!?」


「なんだこれ……平たいけど意外と柔らかい……」


 ぐあ! 頭を何かに掴まれた! 結構な力で……痛いっ! 痛いけど……なんだか良い匂いがして、そしてやっぱり柔らかいような……。


「これはもしかして……」


「もしかじゃねーよ! どうしたらこうなるんだよ!」


「ワザとじゃないって!」


 どうしてそうなったかは分からないが爆風の中で屈んだ先にデルのお股があったらしく、そこに頭を入れていたようだ。そして俺が触ったのは……まあ、あれだ。


 ギロリと睨みながらデルは思い切り太ももで頭を挟んでいた。

 非力といえど脚の力はさすがで痛かったけど、柔らかいので色々と相殺された。


「……ったく」


 そして呆れた様子で太ももを離した。


「ふう……、って、そうだトロルは!?」


 前を見ているセレーネとアティウラに聞くが、二人は言葉を失ったのか答えてくれない。

 仕方なく顔を上げて見てみるとそこには……。


「なにあれ……」


 爆心地と思われる場所には真っ黒な地面と同じく真っ黒な塊があるだけだった。


「あれ……トロルは一体どこに?」


 一瞬逃げたのかと思ったが、爆心地の塊をよく見るとそれはトロルの腰から下の部分のようで、そこより上部はファイアーボールで完全に失った状態になっていた。

 辛うじて残った部分も至る所が黒く焦げていてトロルだと分かってなかったら、これがなんなのかす分からないほどだった。


 爆心地から少し離れたところにゴブリンやコボルドと思われる焦げた物体らしきものも確認出来る。

 その中にケイオスくんやオークにノールは居ない。予め逃げていたからか衝撃波に飛ばされたのか離れた場所でぐったりして倒れているのが見える。どうやら生きているらしい。


「な、なんだってのだ……今のは……」


 更にファイアーボールを撃ち出す直前に飛び込んできた3バカ騎士も生きているのが確認出来た。やっぱ凄えなあの鎧。


「み、みんなは大丈夫か!?」


「ええ、わたくしの方は大丈夫です」


「僕もちょっとだけ髪の毛が焦げたくらい」


 セレーネとデルは大丈夫だったらしい。


「アティウラ?」


「……本当に紋様族の魔法なの?」


 俺が聞いても、彼女はまだ中心点を見ていた。


「あのさ、そろそろ……」


 そこへデルが辛そうに話しかけてきた。


「あ、ごめん」


 強力な魔法を使ったことで魔力欠乏症になったデルを俺は手を開いて迎え入れると、そのまま力なく抱きつくように身を預けてきて、そのままキスをしてきた。


「……ふう」


 キスが終わると直ぐに欠乏症が緩和され何事もなかったようにデルは立ち上がる。


「お疲れ、それにしても凄い威力だったな」


 お互いの唾液が付いた口元を拭いながら俺も立ち上がる。


「まあ……ね。でも、まさかここまで強力だとは僕自身も思いもしなかった」


 何せ一撃でトロルを倒すだけでなく周囲のあらゆるモノを吹っ飛ばしたのだ。

 初級では最上位の攻撃魔法だが本来これほどの威力ない。通常が手榴弾だとすると、これはもう爆撃機から落とされたトン単位爆弾のレベルである。


「……謝罪します」


 アティウラがデルに突如謝罪した。


「そうなん? あー、でも僕もコイツが居ないとこんなのは使えないんだけどね。それに使っても一発で燃料切れになるし」


 デルはさほど気にしていないのか、しかも弱点まで説明してしまう。


「それは私も同じ。それでもこんな強力な魔術師なんてそうはいない」


 なんか二人して認め合うような雰囲気だった。


「それはそれでいいんだけど、敵の生き残りがまだ居るんだけど」


 小さいトロルは投げ飛ばされたことでファイアーボールの影響はなく生きているし、ケイオスくんにノールにオークは気絶。ゴブリンとコボルドは大半が火球魔法に巻き込まれたようだが虫の息が数匹残っている、

 無傷のもいるがそいつらは既に森の方に逃亡していた。


「おっと、のんびりしている場合じゃなかった」


 俺の言葉にアティウラは直ぐさま死にかけたゴブリンの元に向かうと無情にもポールウェポンの槍で止めを刺した。


『ぐぇ!』


 声にならない小さな悲鳴を上げて絶命するゴブリン。


「幾ら何でも……」


「人里の知った魔物は生かしておけない」


 それってあの本にもそう書いてあったな。


「だけど、そいつらは黙っていても後は死ぬだけだし……」


「それこそ止めを刺すのが情け」


 そのままにしておいても自然に回復出来るレベルじゃないし、だからといって回復させるつもりもない。ならば苦しみを長引かせずに早く楽にしてやる。アティウラの説明がもっともすぎて何も言い返せない。


「あの勇者様、お取り込み中のところ申し訳ないのですが……」


「どうしたの?」


 セレーネに呼ばれ彼女の方に向くと、なんだか困ったような微妙な笑顔をある方向を指差していた。


「あのですね……、なんと言えばいいか。色々と見渡せるようになったと申しましょうか……」


 そう言われて周りを見渡す。確かに何か変な違和感が……そういえば遠くがよく見えて、大分と眺めがよくなったような……、あ、そうか、あそこには建物があったから……。


「え……あ、あれ……もしかして……」


 この周囲にあった建物が全てが火球の爆風により吹っ飛んでいたのだった。


「やーっちまったぁ!!」

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