サウナというお風呂

サウナというお風呂<Ⅰ>

 あばら屋に案内されたが、これは……家と言えるのだろうか。

 屋根は辛うじてあるが壁は朽ちてほぼない。ただガラクタが置いてある倉庫のようなものだった。


 それでも屋根の下にテントを設置すると大分違うんだけどね。

 村人達からは食糧などを分けてくれたので結局何時もよりも豪華だった。


 屋根の引っかかりに魔法のランタンをかけて、アティウラがメイドさんの本領発揮とささっと簡易のかまどを作ると慣れた手つきで調理を始めた。


 それを横目に俺の方は雑嚢からテントを取り出して組み立てていく。

 軽量なアルミ製と違い、骨組みは木製なので結構な重量があり組み立てるには結構な力が必要だったが要は慣れってやつで、なんとか一人で完成させられた。


 それが終わるころには料理も出来上がり、物置の箱をテーブル代わりにして豆のスープに鳥肉を焼いたものやハムのような加工肉、ピクルスのような漬け物が並んでいた。


「うわ、結構豪華だ」


「色々分けてもらったから」


 最初はクソだなとまで思っていたけど本当に温かい人達ばかりでした。ごめんなさい。

 その感謝をしながらそのまま食事を始める。


「美味い……」


 空腹だったこともあるのだろうが、こっちに来て最も美味しいと思えた。


「お姉ちゃんって本当にメイドさんだったんだね」


「うん、洗濯やお掃除も出来るから」


 力こぶを作ってアピールをするアティウラ。家事全般をこなせる挙げ句に戦闘まで出来るとか、どんだけのスキル持ちなんだろうか。

 これだけ美人で強くて家事までこなせるとか理想のお姉さんと言ってもいいかもしれない。あ、胸が堅くなければ。


「これは鎧」


 俺の考えていることを読まないでいただきたい。もしかしてまた顔に出ていたのだろうか。


「ここは柔らかいはず……」


 何故疑問系なのか。

 もしかして鍛えすぎて胸筋へと変貌しているとかだったりしてな。いや多分メチャクチャ柔らかいと思うけどね。


 そんなことを話しつつ食事を終える頃に村人が来てお風呂の用意が出来たから早めに入ってくれと言われ、早速向かうとそれは小さな小屋だった。


「えーっと、ここにお湯が入っているのかな」


「これは蒸し風呂」


 蒸し風呂? ああ、サウナのことか。


 この辺りの入浴はお湯に浸かるのではなくサウナが一般的なのか。

 とりあえず扉を開いてみると、室内から凄く暑い熱気が飛び出してきた。


「うはっ、これは凄い」


 そして中を覗くと数人が座れるほどの広さしかない。


「なるほど、それじゃあお姉ちゃんから先に入ってよ」


「薪は大事」


 サウナに使う薪が豊富にあるわけじゃないらしい。

 つまり、これはいわゆるおもてなしになるのか。そういうことならさっさと入らないと。


「だから一緒に入る」


「え、一緒に!?」


「そう……緊張する?」


「あ、当たり前じゃないか」


「んふっ、可愛い」


 な、なんだよその扱いは! それだけ大きなモノをぶら下げておいて、よくもまあ簡単に言うよ。いや待て……この手のお話でよくあるじゃないか。


「もしかしてお姉ちゃんはお兄ちゃんだったのか!?」


「なんで!? 私の裸見たじゃない!」


 それまで余裕そうな表情をしていたアティウラも思わず突っ込んできた。


「あ、そうだった。うん、凄く綺麗だったのを憶えてる」


「ちょ!? も、もう……」


 クールで綺麗な女性が恥じらう姿ってのはなかなか良いものだな。などと考える明らかにこっちが年上のキモいおっさんです。


「全く……今更でしょ」


 とはいえやはりこちらを男として見ていないらしい。


「でももし間違いが起きたら……」


「ん? ナイスじょーく」


「じょ、冗談じゃないかもしれないだろ!」


「そのときは覚悟してね」


「え……、か、覚悟ってどういうこと?」


「ビックリして握りつぶすかも」


 アティウラは開いた手を握りしめながらそう言うと、反射的に股間がきゅんと縮こまってしまう。


「そ、そんなことをするつもりはないけど、これでも一応男だし、お姉ちゃんくらい綺麗な人にそう思っても不思議じゃないよね」


「はいはい」


 アティウラは全く意に介していなかった。


「ちゃんと女扱いしてくれてありがと」


 それどころか感謝までされたし。


「人間の男はプライドが高いから……」


 えっと、それはつまりどういうことだ?


 プライドの高い人間の雄にとって格下である亜人種の雌に腕力で勝てないのが許せないってか。

 そういえば旦那様のところでも、これだけの美人なのに誰も擁護したりすることはなかったな。


「個人的には強くて綺麗で優しいなんて最高の女性だと思うけど」


 綺麗で格好いい、まるでマンガやゲームから出て来たようで、しかもメイド服で巨乳なんて……最高じゃないか!


 彼女の存在の前にはそんなちんけなプライドなんて捨てればいいのに、一体この星の野郎共は何が不満なんだろうか。


 でも……俺にも一つだけ不満があるんだよな。


 そう、アマゾネスなのに、なんでアマゾネスなのに……ビキニアーマーじゃなくてメイド服なんだ! どうしてそこはテンプレ通りじゃないんだよ!

 もちろんメイド服は嫌いじゃないむしろ大好物だ。だがアマゾネスといえばここはビキニアーマーだろがぁ!!


 ラーメンもカレーライスもどっちも好きだが、ラーメンにカレーをぶっかけてどうするんだよ!

 いや、それはそれで美味しいかもしれないけど。

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