ケモミミの一族

ケモミミの一族

 村人に案内された先はなんとも見窄らしい建物だった。


「ここに住んでいるのか……」


「彼らは狩りの名人でな、よくウチの作物と交換なんかして肉が食えて助かっているよ」


 そうなんだ。一応持ちつ持たれつの関係ではあるのか。


「すみませーん」


「何か用カ?」


 家の前に立っている人影を見て声を掛けてみると反応があったので近付いてみるとそこには……。


 ああうん、確かにケモミミだ。ケモミミだけど……そうだけど。


 違う! これは違うんだって!!


 彼らは人間に耳や尻尾が生えたのではなく獣が二足歩行生物になったものだった。

 なので顔は犬そのもので身体は毛むくじゃらのノールやコボルドみたいな魔物に近かった。


「ソレで何か用カ?」


 口が人間みたいに動かないのだろう。独特のイントネーションだった。


「あ、いや、あの実は少し難儀しておりまして、一晩この辺りにご厄介になるので……えーっとご挨拶をと……」


 すると驚いた顔をする獣人の男性。


『貴方は我らの言語を話せるのか? いや、それにしてはあまりにも流暢すぎる……』


 訛りが消えてちゃんとした言葉となって聞こえてきた。

 どうやら獣人語みたいな言葉で話をしたのだろう。


「これは俺のスキルで言語を自動で翻訳してくれるのです」


『そんなことが出来るのですか』


 人間の言葉ではぶっきらぼうな感じに聞こえたが、彼らの言語で聞くとかなり丁寧だった。


「おかげさまでなにかとコミュニケーションが円滑に出来てます」


『そうですね、今夜は何処に泊まるのですか』


「直ぐ近くの小屋にテントを張ろうと思っております」


『あの……貴方は私を見てもなんとも思わないのでしょうか』


「はい? えーっと……申し訳ない。何かいきなり失礼なことをしたのでしょうか?」


 しまったな。

 俺に比べてなんて毛の量が凄いって思ったのがバレたのだろうか。

 いや禿と無縁そうで羨ましいとかか?


『いえ、こちらこそ失礼しました。なんとも不思議な方ですね』


「そうなんですか?」


『……そうだ。少しお待ちください』


 獣人の男性は家に入ってしまうが、直ぐに出てきた。

 そのとき男性の後ろから数人の子供と思われる小さな獣人達が俺を隠れて伺うように覗いていた。


『こちらをどうぞ……お口に合うか分かりませんが』


「これは……よろしいのですか?」


 差し出されたのは、おそらく鳥を焼いたものだと思われる。


 ぐぅ、ぐっ……ぐうぅぅぅ……。


 思い切り腹の虫が鳴ったと思ったら俺じゃなくて隣のアティウラだった。


「し、失礼しました……」


 横に立ったまま微動だにせず謝罪だけすると獣人の男性は少しだけ笑顔になった。


「それではありがたくいただきます」


『何か困ったことがありましたら、なんでも言ってください』


 俺は彼に挨拶をしてその場を離れた。


「なんか凄く良い人だったけど……何がまずかったの?」


 アティウラに思わず聞いてしまう。


「あの姿を見て何も思わないの?」


「うーん……凄く毛が多くて禿の心配がなさそうだとか」


 でも夏場はキツそうだな。あと生え替わりシーズンは掃除が面倒とか。


「それだけ? 魔物みたいとか……」


「まあノールやコボルドに似てはいたけど全然違ったよ。彼奴らはもっとこうヤバい顔つきをしていて、この人達はとても感じがよかったし、ってそれに何か問題があるの?」


「気にならないなら、それでいいよ」


 何が言いたいのだろうか。

 魔物に似ているから邪悪じゃないのかとかそういう考え方なのだろうか。


「それよりも肉もらっちゃったし、後で食べよう。すげえ楽しみ」


「獣人が触れた肉も気にならないの?」


「毛が付いているとか? まあそれはしょうがないでしょ、その程度手で取れば問題ないし」


 何せ俺も子供の頃は犬飼ってたから毛くらいで一々文句言ってられない。


「そう……なんだ」


 またも頭を撫でられてしまう。

 くそ、今現在アティウラの方が身長が高いからって簡単にされてしまうのがちょっとだけ悔しく感じるのであった。い、嫌ってわけじゃないけどさ。



・森の夜は凄く冷えます。


「ふえ……、くしゅんっ!」


 日が落ちると森の中は凍えるほど寒かった。

 獣の毛皮に身をくるみながら、たき火に当たる。


「不味……」


 そして妙に薬臭い飲み物を飲んで身体を温めていた。


 直ぐ側ではトロルや魔物達が寝ていてイビキなどで結構五月蠅い。

 ああもう、臭いし、不味いし、五月蠅いし……なんなんだよ。


 一日も早くこんな生活を止めたかった。

 だが朝になって亜人のメイドさんを見つけて捕まえればこんな生活とはおさらばである。


「ひひ……ひひ……」


 たき火に当たりながらなんとも気味の悪い笑みを浮かべて明日を楽しみにするのであった。

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