内緒の転送装置
内緒の転送装置
「なにこれ?」
いざ出発のはずが族長に案内されて何故かまだドーム内にいた。
そこには壇上になっていてその床には魔方陣のような模様が地面に描かれていた。
「まともに歩いて行ったら時間がかかるから、これを使って短縮しようではないか」
「あ、そっか、今の族長なら魔力石使わなくてもこれ使えますね」
族長とカトリナが床に手を触れて準備らしきものを始めていた。
「そうなんじゃよ。勇者殿、これが何か分かるかね?」
「人間をどこかに転送するような装置かな」
「な!? 勇者殿……こういうときは気付いたとしても知らぬふりをするのが男というものじゃろ」
「あ、そうか、ごめん……」
あからさまに肩を落としてガッカリした様子の族長に非難するような目を向けるカトリナとデル。
「そ、それでこれはどう使うんだ?」
「これはなっ! 人一人を遠くに転移する装置なのじゃ!」
……えっと、最初から?
「な、なんですってぇ!?」
セレーネが族長の言葉に驚いていた。意外と付き合いが良いのね。
「じゃあ、帰るときこれを使えば人間の街に行けるのか!」
「……あー、そういうのじゃないんじゃが」
しまった……余計なことを言ってしまった。
二人の目がより険しくなる。
「そ、それでこれを今から使うのか?」
「そうなのじゃ! これは陣と陣を行き来するための装置で、森の中に一つ陣があるのでそこに転送するのじゃ」
「なるほど、これってまだ使えるの?」
「もちろんじゃ! 結構MPの消費が厳しくて使うには魔力石を必要していたが今なら問題はない」
ああ、なるほど。
人や物を転送出来る装置か。
後で詳しく調べてみよう。
「それでは早速、始めようぞ」
「すげえ……本当に森の中だよ」
飛ばされた先は森の中で遺跡後のような場所だった。
ほとんどの建造物は朽ち果て、転送する床だけが残っている状態だった。
装置は1人ずつしか送れず時間がかかるため、行くのは俺とセレーネとデルの3人のみとなった。
最初は転送場所に慣れているのを理由にデルが飛んで行き、その次は俺で、そして今はセレーネを待っていた。
「それで、この砂時計が終わっても戻ってこなかったら例の方法を実行すればいいのね」
「ああ、頼む」
「わっ!?」
魔方陣が光るとセレーネが飛ばされてきた。
俺と同じでやはりセレーネも驚いた顔をしていた。
「これ、凄く便利ですね」
「便利だけど、色々と制限があるからね」
「でも移動は相当楽になるぞ」
決められた場所しか飛べないし、一度に運べるのは人一人のサイズまででMPの要求が大きいし一度使うと5分は使えない。
10人を飛ばすとなると最短で50分かかり、MPは軽く120を超える。
だが俺からMPを与えられている族長なら魔力コストは問題にならないので使い方次第で相当便利になりそうだ。
「それじゃあ……」
「あ、そうだ。これを……」
俺はあるものを思い出して万能雑嚢に手を入れて探す。
「これだ。何かの時のためにこれを使えよ」
取り出したのはナイフサイズの杖と指輪だった。
「なにこれ?」
「一応魔法の武具だから役に立つと思う」
「え、そんなのもらえないよ。それに僕達種族に杖は必要ないんだし」
確かに紋様族は魔法の発動に杖などを必要としない。
だが俺が差し出したこの杖は、ある能力を持っていた。
「それは分かってる。でもこの杖はむしろお前向きだと思う」
「どういうこと?」
「それはな……」
「……なるほど確かに僕には便利かもしれない。でもこんな凄いものをもらってもいいの?」
「俺には無用の長物だし、もし魔法使いになったとしても使うことはない」
「確かにそうね。あんたには全く意味がないもんね。うん、分かった。ありがたく使わせてもらうよ」
デルは受け取った杖を懐にしまい、指輪をはめてステータスを表示する。
「本当だ……防御力上がってる」
「お前は無鉄砲の癖に防具を着ていないからな」
「え、それあんたに言われることなの?」
「勇者様に言われるのは心外ですよね」
「本当そうよね」
デルとセレーネが俺をディスるときに意気投合するのは勘弁して欲しい。
「さて、じゃあ近くまで案内するわ」
「頼む」
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