そしてドームに帰還

そしてドームに帰還

「さすがに色々とあって疲れたな……」


 デルをおんぶしながら、砂の斜面を登っていた。


「地上に落ちてきて、まだほんの数日なのにずっと忙しいままですものね」


「そうなんだよ……、こういう場所だから温泉にでも入ってゆっくりしたいよ」


「温泉ですか? 聞いたことはあるのですが、どういうものなのでしょう」


 セレーネと温泉か……、混浴もありだな。


「温泉ならあるけど」


「え、まじで!?」


 なんですと……? デルの一言に俺の期待感が一気に増した。


「でも少しばかり修理が必要なんだよね」


「おっと……残念。ずっと風呂に入ってないし、脚の中とかドロドロで服の中もグチャグチャになってるから入りたかったなぁ」


「……だったら、なんとかさせるわよ」


「そうなの?」


「あなた達には、それくらいの恩があるし」


「そうか。でも、あんまり無茶はしなくていいぞ」


 何とか斜面を登り終えてドームが見えるところまで戻ってくると、入口のところに人だかりが出来ていた。

 俺達のことを確認すると、彼らは一気に駆け寄ってきて、そのまま囲まれてしまう。


「ありがとー!」


 みんなそれぞれ口々に感謝してくれているが、さすがに騒々しすぎてありがとう以外言ってるか分からなかった。

 それにしても俺だって子供並なのに、これだけ囲まれていながら視界は良好だった。まさに子供に囲まれた大人って感じである。


「皆の者! 勇者殿が困っておられるだろ。少し落ち着け」


 その一言で紋様族は静かになり、俺から少し離れてくれた。

 声の主は人をかき分けて、こちらに向かってくる。


「族長!」


 デルがそう呼んだ。


 族長と呼ばれたその人は、一際派手な紋様が印象的な女性だった。

 当然他と同じく背は低く身体の作りもか細い物だったが顔の造りは幼いが妙な大人っぽさがあり、浴衣を着崩したような衣服と相まって不思議な色気を醸し出していた。


「ごめんなさい族長、魔法を使いすぎて僕は立てません」


「何構わんよ。お主も今回の功労者の1人じゃ」


 話し方は妙な感じだがカトリナ達のような子供っぽさはなかった。


「して、このお二方が、我らの里を救ってくれた勇者殿たちかのう」


「いえ、わたくしはただの人間です。こちらが勇者様で、わたくしはアデル教のただの司祭です」


「ほう……此度の件、皆に変わって感謝致す。本来であれば妾達がなんとかせねばならなかったのじゃが」


 手に持っているのは煙管か?

 何だろう。どうしても子供がそんなものと叱りたくなってしまう。


「何とか怪我人を癒そうと薬草作りで地下深くに潜っておったので対応が遅くなって申し訳ない」


「いや、俺が好きでやったことだから」


「ははっ……これはまた何とも面白い御仁じゃの」


「ええ、とても面白い方なんです」


 セレーネさん、その面白いというのは一体どういう意味なのかな?


「それに本物の聖職者を見るのは大異変以来初めてじゃな」


「大異変?」


「突如、全世界の聖職者が奇跡を使えなくなり、神の選別により選ばれた者のみに奇跡を許されたという事件があった日です」


「ああ、例の話ね。ってそんなに長く生きているの!?」


「勇者殿、女性に年齢の話を探るのは野暮というものですぞ。確かに無駄に長く生きておりますがのう」


「おっと、これは失礼」


 なるほどそれだけ長く生きているから、纏っている雰囲気が大人っぽいのか。

 それでもぱっと見た目は完全に子供なんだけどな。


「それで件のワイバーンの方はどうなりましたかの?」


「あのワイバーンは親子で2体いました」


 説明は今だおんぶされたままのデルが報告をし始めた。

 2体居る、それで囲んでいた紋様族の人達がざわつきはじめる。


「なんじゃと……」


「ですがその2体ともこの勇者が倒してくれました」


 デルが倒したと言った瞬間、すげえとか、格好いいとか言いながら更にざわついた。


「倒したと?」


「はい、子供のワイバーンはあの高温の蒸気が吹き出す大地で仕留められました。そして親ワイバーンは……」


「親の方は、どうなったんじゃ?」


「親の方は勇者さんの強大な魔法で一撃のもと倒したんですよ」


 話しづらそうなデルに代わり、カトリナが最後に付け足した。


「なるほどのう……、勇者殿は魔術師であったか」


「え……えーっと……」


 俺はカトリナの方を見ると彼女はウィンクをした。


 どうやら秘密の能力と思って隠して欲しいと分かってくれていた様子。むう空気の読めるいい子だ。


「僕だって、あんなの自分の実力だなんて思いたくないし……」


 耳元でぼそっと囁いてきたデル。

 気の強い子ただのツンでなく、デルもまた空気が読めるいい子であった。


「それではお二方とも、大した持て成しは出来ないがお食事でも用意しよう。カトリナ、案内して差し上げろ」


「はーい。わっかりましたぁ」


 デルはこのままでいいのだろうか?

 誰かに預けようにも受け取ってくれそうな人もいない。

 しょうがない、このまま連れて行こう。

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