翼竜の親子
翼竜の親子<Ⅰ>
バサーバサー!
「え、何の音?」
羽ばたくような音が聞こえ嫌な予感がしつつも上を見る。
「うそん……」
上空に翼竜と呼ばれるワイバーンがこちらに向かって飛んでくる。
「まじかよ……逃げろっ!」
間に合うとは思わないが俺と部隊長は怪我をした兵士に肩を貸してその場から逃げようとする。
だが、そのワイバーンはそんな俺達を無視して瀕死で横たわるヤツの側に降りていった。
どすんっ!!
「な……で、でか!?」
先ほどのやつよりも体長は倍くらいはあるだろうか。
もしかして番い……いや親子か。
成体ってこんなにデカいのかよ……てか、あのサイズで幼体だったのかよ!?
ピーピーと弱い声を上げている子供に寄り添う親ワイバーン。
だが、直ぐにその声は徐々に弱くなりやがて聞こえなくなる。
どうやら……事切れてしまったのだろう。
『うおーん!!』
「うっ!?」
さっきまでの幼体ワイバーンよりも低くそして圧のある声に、身体が驚いてびくっとなった。
『子が死んだ! 子が死んだ!』
我が子が目の前で死んだことを悲しみで吠えていた。
『オマエカ……! コロス……。オマエ……八ツ裂キニシテヤル!』
「やべ……」
親ワイバーンは子と違い声としてある程度認識が出来た。
認識できたが故に、やばさが分かった。
巨体がこちらにゆっくりと振り向く。
先ほどの子供と違って俺に対して油断はしないだろう。
こりゃさすがに終わったか?
「ゆ、勇者殿どうすれば……」
「部隊長はいいから逃げてくれ。こいつはさっきのみたいに簡単にはいかなそうだ」
「ですが……」
「いいから……な!?」
部隊長と話をしている間に、尻尾が真横から薙ぐようにしなりながら向かってきた。
見た目よりも速いそれを俺は避けることは出来そうにない。
無駄と分かっていても、本能で防御姿勢を取り目を瞑ってしまう。
「“バリア!!”」
ばりんっ! ばりんっ! ばりんっ! ばりんっ!
「え?」
数度乾いた破裂音がして目を開けるとワイバーンの尻尾が目の前で止まっていた。
「“マジックアロー”!」
「“ファイアーショット”!」
ぶすぶすぶす!
数本の光る矢がワイバーンの顎下辺りに刺さると、顔の近くで花火のような爆発が起こる。
『うおーん!!』
いきなりの不意打ちに親ワイバーンは怯んだ。
「勇者様!」
「生きてる!?」
「大丈夫?」
谷の上から3人の声が聞こえた。
「セレーネに……カトリナ、デル!? どうして!」
デルとカトリナが壁のような谷を器用に降りてくる。
なるほどそうやれば間欠泉を回避出来たのか。
「どうしてもこうしてもないでしょ! 1人だけ格好付けて!」
親ワイバーンはいきなりの加勢の登場に警戒してこちらを見ている。
「あれぇ……なんかワイバーンが大きくなってない?」
不思議そうな顔をするカトリナ。この緊迫した状況でものんびりしているな。
「最初のは子供の方で今はそこに倒れている。で、こいつは親の方で復讐に来たらしい」
「わわっ!? 本当だ……」
「あ、あんた、もかしてあのワイバーンを倒したの?」
「そこの間欠泉に誘い込んだだけだよ」
「ありゃりゃ、蒸し焼きになっちゃってる」
ワイバーンの子供の死体を見て、うわぁという顔でカトリナが言った。
「話をしている暇はありませんよ! “バリア”!」
ばりんっ! ばりんっ! ばりんっ! ばりんっ!
警戒していたワイバーンが尻尾を大きく振りかぶってこちらに攻撃をしてきたが、唯一谷の上にいるセレーネが冷静に攻撃を防いでくれた。
「おっと、そうだった。ほら逃げるわよ!」
デルが俺の手を取って谷に戻ろうとするが、俺は動くのを拒否する。
「ちょっ、何考えているのよ?」
「彼らを置いてはいけないよ」
「無茶を言わないでよ! あんたを救うのだってこっちは大変なんだから!」
『死ねっ! 死ねっ! 死ねっ!』
どすんっ! どすんっ! どすんっ!
親ワイバーンがお構いなしに尻尾を遮二無二振り下ろす。
「うお!?」
「勇者さん! デル! 早く」
一足先に谷の方にいるカトリナがこっちだと手を動かしている。どうやら抜け穴みたいなものがあるらしい。
直撃はバリアで防ぎ、壊される度にセレーネが張り直している。
これでは、いくら彼女にMPがあるからといってもあっという間に限界が来るだろう。
「せめて、さっきみたいな魔法でもう一度出来ないか?」
「魔力石を使ったから、もう打ち止めよ」
「そ、そうか……」
「じゃあ魔力があればなんとかなるか?」
「はあ? そりゃ魔力がいっぱいあれば、ワイバーンだってドラゴンだって倒してやるわよ!」
「出来るのか?」
「悪かったわね! 僕達は先天的に魔術師としてのレベルは高くてもMPが低いんだよ! その中でも僕は特に低いですがそれがなにか!」
怒られてしまった。
そうか、MPがあれば倒せるのか。
だったら……あれをすればなんとかなるかもしれない。
「……ちょ、なんで黙っているのよ……もう、分かったわよ! だったら僕がおとりになるからその間に逃げてよ」
「バカを言うな!」
「な!? あんた今バカって言った!?」
「バカだバカ。大馬鹿だ! 人を助けるためにお前がが死んでどうするんだよ!」
「いきなり走り出したあんたにだけは言われたくはないわよ!」
「ぬぐっ……そ、それはまあ……」
「とにかく考えている暇はないでしょ! それともら何か方法があるって言うの?」
「ある!」
「え、あるの? あ、あるんだったらなんとかしなさいよ!」
「いいんだな?」
「え? う、うん……」
デルの肩を両手で支えると、ゆっくりと顔を近づけていく。
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