やはり聖職者は頼りになるのです

やはり聖職者は頼りになるのです

「慈愛に満ちし大地の女神よ。このものの傷を癒したまえ……」


「添え木持ってきて!」


 彼らの頼みとは同胞の治療だった。

 ガス中毒者に酷い火傷、そして骨折や圧着損壊。

 それ以外の症状の軽いのも含めると20数名にも及ぶ負傷者がいた。


 さすがにドームの中に入ることは出来ないとのことで紋様族が担架のようなもので患者を入口まで次々と運んできた。


 もちろんセレーネの奇跡には回数の制限があるので、より重傷で危険な状態の者から順番に治療していくしか方法はない。

 俺の方も雑嚢の中に入っていたポーションも出して使うことにする。


 特に酷いガス中毒者にはキュアポイズンをしてそれ以外はポーションを飲ませる。

 俺の持っているポーションではこれ以上症状を進行させない程度の効果しか無いが、セレーネの奇跡が回復するまで保たせられれば何とかなるはず。


 最も危険なのが火傷の子で全身のほとんどが爛れていてかなり危険な状態というか、生きているのが不思議だった。まずは彼……酷すぎて性別が分からないが、セレーネが使える最も上位の回復魔法で火傷は全て回復させた。


 火傷にしても毒ガスにしても状態は回復しても体力までは戻らないため、そのまま養生するようにと言って後は彼らに任せる。

 患者の家族だろうか。セレーネに泣いて感謝をしている者が多数いた。


「添え木をこうして、しっかりと布を巻いて固定するんだ」


 数十年前まで神聖魔法がもっと身近な存在だった頃は簡単に病気や怪我を奇跡で治せていたため、現代になっても全く医術が進歩していないとのことで外科的な簡単な処置も分からないらしく、俺が見よう見まねの医療行為をしていた。


 ネットでチラ見した程度の知識なので合ってるのか少し自信がない。

 だが固定したら少し楽になったようではあるので、よしとしよう。


「申し訳ありません。わたくしの奇跡は使い切ってしまいましたので……」


 どうやらセレーネは打ち止めになったのでこれ以上はどうすることも出来ない。

 それでもすがるように見てくる紋様族の人達。


 まだ半分も治せていないが、ポーションと応急処置を施し神聖魔法の回復を待つことにする。


「明日になりましたら再度使えるようになりますので、申し訳ありませんがそれまでお待ちいただけますか」


「あ、うん……絶対にだよ!」


「是非、お願いします……」


 とりあえず緊急性の高い重篤患者はなんとか対応出来たので、これ以降は明日になって問題はなさそうだった。


「ふう、お待たせして申し訳……、ってなんなのこれ?!」


「あ、ヴェンデルガルト、聞いて聞いて!」


 奥から出て来たヴェン……なんとかさんが外に出てくると門番をしていた彼が話を始める。


「なんだか中が少し騒がしいなって思ったら、これだったんだ」


「うん、そうなんだよ」


「もうなんで相談をって、そんなこと言っている場合じゃないか……助けてくれたことには感謝します」


 俺とセレーネに恭しくお辞儀をする女の子。


「だからって……アンタのしたことは忘れないから、チャラにはならないから」


 お辞儀をしながら、俺に鋭い視線を向けて睨んできた。


「まあ、ですよねー……」


 ヴェンなんとかさんは他の紋様族に比べて頭一つくらい大きく彼らの中ではかなり大柄だった。

 もちろん、そうだとしても俺やセレーネよりも小さいことに代わりはないけど。


「な、なんなの?」


 とはいえ他の紋様族と同じくやはり胸もお尻も薄く全体的に造りが細く、まさにお子様って感じだった。


 やはり綺麗に整っているのが気が強そうな雰囲気が全面に表している。

 これだと将来が楽しみって、そうか彼らはこれ以上大きくなることはないのか。


 周りが見た目通りに子供っぽいが、彼女だけは仕草というかなんか妙に大人っぽいさを感じるのは……少し身体が大きいからだろうか。

 なんだか小さな子供に囲まれたお姉さんて感じだな。


「あのさ……」


 他の子達は普段でもはっきりと紋様が分かるが彼女の顔にはほとんどそれが確認出来ない。手や脚には薄らとあるのでそれで人間ではないと分かるが、その辺りは個人差なのだろうか。


 それにしてもこんな季節なのになんで手や脚が露出させた格好をして寒くはないのだろうか……。


「もしもし?」


 この子に至ってはお腹まで出ているし……けしからん。実にけしからん。

 それに……見ちゃったんだよな。この子の……なんだその、まあ、無毛地帯を……、あの放物線は神々しかった。


「おい!」


「え?」


「勇者様……さすがにあからさまですよ。考えていることが表情で全部分かってしまいますよ」


 さすがのセレーネも呆れ気味のため息をついた。


「おっと……」


「きっ!!」


 初めての時と同じように物凄い形相で睨まれてる。それでもなお美人に見えるのは凄い。


「ぼ……私はヴェンデルガルトと申します。以後お見知りおきを……、いや忘れてくれても構いませんが」


「ヴェンデ……ベンデ……? 結構長くて難しい名前だよな」


「なっ、悪かったわね。だったら好きに呼べば!」


「こらこら、族長に言われたでしょ、ちゃんと対応しなさいって」


「ぬぐっ……」


 なんだか諭されてる。


「ならばベンデルって呼ぶ……だめだ便が出るってやっぱりシモ感が……」


「このっ!」


「うお!? あぶな!?」


 ベンデルが思い切り蹴り上げてきたが、後ろに下がってぎりぎり避けられた。


「貴様! 人の名前を何だと思っている!」


「悪かったよ。じゃあ更に短縮してデルでいいか?」


「なんか馴れ馴れしいな」


「だったら止めておくか」


「好きに呼べば!」


「分かった。そうする」


「もう勇者様、いくら彼女が可愛らしいからってからかいすぎです」


 それまで黙って見ていたセレーネが見かねた様子で話し出した。


「申し訳ありませんが、わたくしたちはこれからどうすればよろしいのでしょうか」


 おっと、そうだった。


「ここではちゃんとした話も出来ませんから、場所を用意しましたので付いてきてください」


「じゃあ中には入れるんだ。それはなんか楽しみだな」


 デルの横にいるしっかりした雰囲気の女の子が案内をしてくれるらしい。

 見た目は他の紋様族と同じだが話し方は少しだけ大人っぽい。


「少しでも不穏な動きを見せたら、消し炭になると思いなさい!」


「……物騒だな」


「もうヴェンデルってば……申し訳ありません。では私に付いてきてくださいね」


 デルの方が体格は上だが、隣の女の子の方がお姉さんみたいだった。

 それにしても本当にこの種族は年齢が分かりづらい。

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